#229 うどん生地⑨・・・まとめ
これまで主にグルテンとでんぷんに着目して、うどん生地の性質について考えてきました。その出発点は小麦粉のグルテンです。小麦粉に対して①水を加える②捏ねる③暫く放置するという3つの作業を施すことによって、グリアジンとグルテニンからグルテンが生成されます。このグルテンは粘弾性をもつため、生地を自由自在に加工することが可能です。三つ編みパンとか、わんちゃんの形をした動物パンができるのも、焼き上げる前、つまり生地の状態においてバツグンの加工適性をもっているからです。そして数ある穀物の中でもこのグルテン、つまりグリアジンとグルテニンの両方を兼ね備えているのは小麦だけで、それが小麦が穀物の王様と言われる所以です。
捏ねあげた生地の状態では、グルテンは粒の状態で生地中に点在しています。これを麺棒で延ばすと、グルテン繊維も一緒に生地が延びた方向に展開されます。つまり延ばす方向にグルテンも「粒」から「線」となって延びるわけです。そしてうどんをゆでたときには、この「線状」のグルテン繊維の方向性がキーとなります。
これまで何度も繰り返しましたが、建物に喩えるとグルテンが鉄筋で、でんぷんがセメントです。もちろんそっくり同じというわけにはいきませんが、イメージを膨らませるとその類似性が理解できると思います。ゆでる前のグルテンはチューインガムのように自由自在に変形でき、鉄筋のイメージからは程遠いですけど、加熱して失活(活性を失う)ことによって鉄筋らしくなります。またでんぷんは水を加えただけでは「つなぎ力」をもちませんが、加熱することによって膨潤して、糊化することによって強い「つなぎ力」を生じます。セメントは時間と共に硬化しますが、でんぷんは加熱することによって、膨れて固まります。
では生地をカットする方向の違いによって、ゆでたときに長さや太さが異なるのはどうしてでしょう?この理由としては、加熱することで、グルテンは失活し、でんぷんは膨潤し糊化しますが、このグルテンの失活のタイミングとでんぷんの糊化のタイミングが少しずれていることに原因があると考えます。つまり線状のグルテンは80℃前後で失活すると硬化し、その時点で「つっかえ棒」の役目をします。しかし小麦でんぷんはその後も膨潤を続け、更に大きくなります。このビミョーなタイミングのズレによって、うどんが長くなったり太くなったりする割合が変化し、またねじれたりすると考えます。小麦でんぷんだけを水と混ぜて、加熱しても全体に「ぼわぁ~」と膨れるだけです。この事実からもグルテンの影響が大きいことが理解できると思います。
最後に垂直方向について考えてみます。垂直方向に着色した線は、生地が延びるに連れ、くさび形となり、更に延ばすことによって、くさびの角度が小さくなり、最終的にはほぼ地面と平行になってしまいます(#227、#228)。よって延ばし終えた生地では、グルテン繊維は地面とほぼ平行になり、重なりあい、そして層となって存在しています。そしてこれまでの考え方でいうと、この生地をゆでたときには垂直方向にも膨れやすいことがわかります。言い方を換えると、垂直方向に延びるグルテン繊維は存在しないので、「つっかえ棒」もなく、膨れやすいということになります。
最初うどんを打ち始めた頃は、最適な生地の厚さがわからずに、「このくらいで良いだろう!」と思ってゆでてみると、予想以上に膨れてびっくりすることがありますが、それはこの「つっかえ棒」がないのも一因です。