#259 全粒粉による血圧低減効果・・・②
アバディーン大学の研究グループによって「全粒粉を毎日食べると血圧が下がる」という事実が検証されました。そこで今回は独断的ではありますが、その実験の補足説明及び個人的感想を述べてみたいと思います。
【被験者の選抜方法】
被験者を選ぶというのは一見簡単そうですが実は難しい問題です。「全粒粉を食べると血圧が下がるかどうか」を確かめるために、どのような人達を対象にすればよいかというのが最初のポイントです。極端に血圧が高い高血圧症の人達は、多分食事療法では既に手遅れで、専門的な医学療法が必要です。よって被験者としては不適切でしょう。また逆に若年層のほとんどは正常血圧者であることを考えると、血圧を下げる必要もなく、また正常であるので、少々全粒粉を食べたくらいでは下がらないでしょう(というか下がったら困ります・・・)。それ以外にも、既に全粒粉主体の食生活をしている人達であれば、それに少々上積みした位では大した変化は期待できないでしょう。
このように考えると、どういった人達が対象として好適かといえば、一応健常者であって(18.5<=BMI<=35)、血圧が高くなり易い中高年層(40歳以上65歳以下)、そして全粒穀物を主食にしていない層にターゲットを絞ればよいことがわかります。それぞれの条件でどこで線引きをするかは、また曖昧ではありますが、ざっといえばこうなります。そしてアバディーン大学では、スコットランドのアバディーン地域でこのような人達を233名選抜しました。
次にこの233名を3つのグループに分ける必要があります。このとき「Aさんは血圧が高いので下がる余地がありそうだ。だから全粒粉を毎日食べるグループに入れよう」とか逆に、「Bさんは血圧が比較的低いので、あまり下がることはないだろう。だから対照グループに入れよう」となると、そこに恣意が働いてうまく分類できません。つまり無作為に3つのグループに分けないと公平ではありません。例えば233名にそれぞれサイコロを振ってもらい、出た目が1か2ならグループ①、3か4ならグループ②,そして5か6ならグループ③に入ってもらうのであれば、そこに実験する人の恣意的な要素が入る余地はなく、一つの公平な分類方法です。実際にサイコロを降ったかどうかは知りませんが、無作為に分類した3つのグループのデータ及び結果は次の結果になりました。
①精製穀物 | ②小麦全粒粉 | ③小麦全粒粉+オート麦 | |
---|---|---|---|
初期被験者数 |
76人
|
77人
|
73人
|
棄権者数 |
13人
|
4人
|
3人
|
最終被験者数 |
63人
|
73人
|
70人
|
男性 |
30人
|
38人
|
36人
|
女性 |
33人
|
35人
|
34人
|
BMI(平均) |
28.0
|
28.0
|
27.0
|
ウエスト(平均) |
90.9cm
|
93.0cm
|
93.4cm
|
最高血圧(平均) |
131.2mmHg
|
125.9mmHg
|
131.7mmmHg
|
最低血圧(平均) |
79.1mmHg
|
75.7mmHg
|
78.4mmHg
|
6週間後(平均) |
—
|
△3mmHg
|
△5mmHg
|
12週間後(平均) |
—
|
△5mmHg
|
△6mmHg
|
この分類結果をみて、グループ②の最高血圧が、他の2グループに比べて5ポイント程低いのが気がかりですが、これも公平なブループ分けの結果であり、事実であるので仕方ありません。尚、初期被験者数の合計は226名で、これは最初の233名には7名及びませんが、これは3グループに分ける前に7名が棄権したためです。
【なるほどと思ったこと】
(1)最初の4週間は全て精製穀物をたべたこと
最初の4週間は被験者全てが、食物繊維の少ない精製穀物を食べています。これは言ってみれば慣らし運転みたいなもので、こうすることによって実験本番スタート時点での状態をできるたけ同じにすることができます。
(2)BMI指数の平均が28であること
BMIが18.5~35の人達を無作為に選びましたが、結果としては平均が28とかなり高めになっています。これは身長170cmなら体重81kg、175cmなら86kgに相当します。スコットランドのアバディーン地域の人達は我々の感覚からするとかなり太めということになります。
(3)オート麦グループ③を設定した理由
日本ではオート麦というのは普段、聞きなれない言葉ですが、スコットランドではポリッジというお粥にしたり、シリアルやお菓子にも利用されるありふれた食材です。よってわざわざオート麦グループ③を設定したのです。普段の食生活において無理なく実行可能というのが、この実験の一つのポイントです。
(4)毎日摂取する量は120g程度と現実的であること
繰り返しますが、「無理のない食生活の範囲で実行できること」が今回の研究における条件の一つです。つまりバケツ一杯の全粒粉を食べると効果があるとわかっても、毎日それだけ食べるのは非現実的かつ不可能であり、よって意味のないことです。
以上を基に今回の実験結果を簡単にまとめると、次のようになります。「ちょっと太めで血圧も高めの中高年の人は、毎日120g程度の全粒粉を摂取するという、無理のない範囲での食生活改善を実施することで、血圧が下がります。」という事実を示したことになります。ここでは割愛しましたが、実際には摂取したさまざまな栄養素の測定値などを評価しつつ、最終的に全粒粉の摂取量だけが唯一の異なる要素で、よって全粒粉には血圧低減の効果があると結論づけています。客観的に評価して結果をだすという過程は、辛抱強さと地道な努力が要求され、とっても手間暇のかかる作業であることがわかります。