#272 でんぷんの性質・・・アミロースとアミロペクチン
前回ご紹介した小麦でんぷんの粘度曲線は、どの小麦でんぷんについても似たようなカーブを描きますが、粘度の上昇の仕方や最高粘度(ピーク粘度)など細部においては、個々の小麦でんぷんで異なります。ではどうしてそのような違いがでるのかといえば、それはでんぷんそのものの構造に影響されるので、それに関連して少し説明いたします。
でんぷんという言葉は日常生活でもよく耳にするので馴染みはありますが、改めて「なんですか?」と聞かれても、「穀物に含まれている栄養素」くらいの認識の方がほとんどではないかと思います。実際のでんぷんは、ブドウ糖が繋がってできた炭水化物で、正確にはアミロースとアミロペクチンという2つの成分から構成されています。前者はブドウ糖1000個位が一直線に繋がった比較的分子量の小さなもので、後者はアミロースが枝分かれして繋がり、ブドウ糖が数万~数十万集まった巨大分子です(右イメージ図参照)。つまり基本的にはどちらもブドウ糖が繋がったものですが、小さなものがアミロース、大きなものがアミロペクチンといった感じでしょうか。
ただ両者の性質は極端で、一般にアミロースの割合が少なくなるほど(つまりアミロペクチンが多くなる程)、粘りが増大し、でんぷんの劣化が遅くなります。典型的な例が米で、私たちが普段食べているうるち米はアミロース含量が16~23%ですが、飯米として美味しいのは17~19%と言われていいます。これが多くなるとインディカ米のように粘りがなくなり、スプーンを使わないと食べることができないパサパサの米になります。また逆にアミロースがほぼ0%になったものがもち米で、この粘りのお陰で粘りたっぷりのお餅ができるわけです。
一般には植物間においても、また同じ植物でも種類の違いによって、この両者の比率は異なります。そしてもちろん小麦においても品種間でアミロース含量は異なり、通常は23.4~27.6%といわれています(「小麦の科学」、p86)。例えばデュラム小麦ではやや高く、軟質小麦では低くなる傾向があり、低アミロース小麦(アミロース含量の少ない小麦)は麺にしたときの食感が優れる傾向があると言われています。
でんぷんは水を加えて加熱すると「膨潤」しますが、一般に早く膨潤して、よく崩壊するものを軟質でんぷんといい、その反対を硬質でんぷんといいます。そしてでんぷんの性質とアミロース含量との間には相関があり、軟質でんぷんはアミロース含量が低い傾向がみられます(「小麦粉製品の知識」、p78)。また「アミログラフの最高粘度やブレークダウンの大きなでんぷんほど膨化容積は大きい(『でん粉製品の知識』、p86)」とも言われているので、柔らかく早く膨潤して崩壊する軟質でんぷん程、最高粘度も高いといえそうです。
柔らかいでんぷんは、大きるなる前に破けてしまいそうな気もしますが、実際は柔らかいほうが大きく膨れるので、粘性が増し最高粘度も大きくなると考える方が現実と合致するようです。そしてもち米がうるち米よりもずっともちもちしているように、最高粘度の大きな小麦粉でうどんを打つと、そのうどんも「もちもちとした食感」に仕上がります。よって「低アミロース小麦」は麺用に好まれる傾向があります。