#273 でんぷんの性質その③・・・でんぷんの老化現象
でんぷんに水を加えて加熱すると、糊化が始まります。そして温度が上がるにつれて粘性が増大し、その内に全体が糊状となります。今度はそれ冷却すると徐々に粘性を失い、最終的にはゲルとなります。ゲルというのは流動性を失った固体状のものを言いますが、身近な例を挙げると、寒天は多糖のゲル、ゼラチンはタンパク質のゲル、豆腐は大豆タンパクのゲル、そしてこんにゃくはマンナンのゲル
等々です。
この冷却の過程においては途中、水が遊離して表面に滲出(しんしゅつ)、つまりだんだんとしみでてきます。そしてこのような現象をでんぷんの老化といいます。これは下のような模式図をイメージすれば理解が容易です。つまり糊化した状態では、でんぷん分子間に水の分子が均一に分散していますが、冷却に伴いでんぷんの分岐している枝の部分が徐々に閉じてきて、その間にいる水分子を保持することができなくなります。そして水が表面に滲出する現象を「離水」といいます。つまり冷却を続けることにより、離水が起きることがでんぷんの「老化現象」です。
この老化現象を分子形態で考えると次のようになります。でんぷん中のアミロース部分は直鎖分子なのでお互いにくっつきやすく、よって沈殿しやすくなります。その結果、アミロース同士で挟まれていた水は、押し出されて離水します。一方、アミロペクチン部分は複雑な分岐構造を持っているので糊化後はなかなか結晶化しにくいと言われています。つまりアミロース部分は離水しやすく、反対にアミロペクチン部分の老化には時間がかかるので、糊化でんぷんの老化はまず溶出したアミロース分子から始まると考えられています。
この老化現象は、60℃以上ではほとんど起こりませんが、温度の低下と共に早く進行するようになります。そして老化現象には「液相」の水、つまり水が液体の状態であることが必要なので、水が凍る直前の2~4℃の温度帯が最も老化しやすいことになります。
最近は色々な種類の冷凍食品が販売されていますが、冷凍うどんもその中で手軽な人気商品のひとつです。ゆでたうどんは、でんぷんが糊化した状態にあるので、これを冷却することは、この老化現象が避けられないことになります。よって老化を最小限に留めるには、糊化後急速に温度を下げる必要があり、特に2~4℃の温度帯をいかに速やかに通過するかがポイントになります。ゆでたうどんを家庭のフリーザーで冷凍しても、お店で売っている冷凍うどんと同じようにならないのは、この凍結スピードの違いが大きな理由です。以上を簡単にまとめておきます:
①糊化したでんぷんは、冷却すると離水をおこし、これをでんぷんの老化現象といいます。
② 老化現象を起こしやすいのは、てんぷんの中のアミロース部分で、アミロペクチンはスピードが遅い。
③老化現象が起こるには、水が液体である必要があるので、2~4℃の温度帯が最も老化現象が進む。