#279 でん粉の性質その⑧・・・加工でん粉

#278ではうどんに馴染みの深いでん粉2種を紹介しましたが、ここではそのうちタピオカでん粉について補足いたします。キャッサバからとれたタピオカでん粉をそのまま小麦粉に練りこんでも、それなりに効果(というか違い)はあります。しかしそのでん粉に対して酵素的、物理的、または化学的処理を施すことにより、その効果や機能を更に大きく引き出すことができます。このとき前者を「天然でん粉」そして後者を「加工でん粉」といいます。

現在、この加工でん粉は、冷凍うどんやコンビニなどで販売されている調理麺など様々な麺類に利用されていますが、その主たる理由は、同じ量であれば「天然でん粉」よりも大きな効果が得られるからです。よって加工でん粉を使用することによって、食感の改善やゆで後の劣化防止などが実現できるわけです。以下、この加工でん粉について簡単にまとめておきます。出典は「でん粉製品の知識(高橋礼治著)」ですが、いかんせん話が少々専門的になること、そして当方の能力不足故、記述に誤りなどあれば予めお詫び申し上げます。

でん粉はグルコース(ぶどう糖)がたくさん繋がったものです。そしてそのグルコース残基、つまりグルコース同士が手をつないでいる部分以外の、グルコースの本質的な部分は次の図のようになっています。このとき↑で示しているのはフリーな水酸基(-OH)で、これは1つのグルコース残基当たり3個あります。つまりその部分は自由に置換できるので、その部分を他の官能基と置き換えることによって、でん粉の性質を変化させたり、その特長を向上させたりすることができるわけです。このような手法を「官能基付加」といい、このような処理をおこなったでん粉は「加工でん粉」の代表的なものです。この官能基付加によって生成された加工でん粉には主として次の3つがあります。

①エステル化でん粉・・・官能基がエステル結合によって付加されたもの。
②エーテル化でん粉・・・官能基がエーテル結合によって付加されたもの。
③架橋でん粉・・・フリーな水酸基同士がくっついたもの(この場合も結合にはエステル結合とエーテル結合の2種類があります)。よってこの場合は2個のでん粉分子がくっ付くことになります。

ここまで説明してもまだ何のことかはさっぱり分からないと思いますが、ただ加工でん粉の商品説明を見ると、「○○でエステル化したもの」、「○○でエーテル化したもの」、「○○で架橋したもの」などの表現が見受けられるので、そのときは上記のグルコース残基のうちのフリーな水酸基がそのように置換もしくは架橋されたと考えてください。食品用加工でん粉としては、酢酸、リン酸、コハク酸のエステル化でん粉、そしてカルボキシルメチル基やヒドロキシプロピル基の付加によるエーテル化でん粉が代表例のようです。まあ単なる表現の言い回しにしか過ぎませんが、何となくわかったような気にでもなっていただければ幸いです。

ただ官能基によって置換されるといっても3つの水酸基が全て置換されるわけではありません。1グルコース残基の当たりの置換の数をDS(Degree of substitution=置換の程度)で表しますが、これを用いると全ての水酸基が置換されるとDS=3になります。しかし実際にはほとんどのものがDS=0.01~0.1の範囲内で、これはグルコース100個あたりについて僅か1個~10個の官能基が付加されている程度にしか過ぎません。でもこの程度の置換でも、糊化温度の低下、糊液の透明性の向上、そして老化の抑制など様々な効果があります。

最後に一例として小麦粉に4種類の異なる加工でん粉を10%、20%混入したときの、最高粘度の変化をグラフで紹介します。このように加工でん粉の種類や量の違いによって、最高粘度が変化し、食感が異なることがわかります。中には最高粘度が下がるものもありますが、粘度の変化はあくまでも一つの結果で、それ以外のいくつかの特性が変化したと考えられます。