#291 乾麺の賞味期限その②・・・うどんとそうめんが違う理由
賞味期限とは「美味しく食べることができ、商品価値が保たれている期間」のことですが、この期間設定にあたっては、各社が独自で官能検査を行い、「この期間内なら十分に賞味できますよ」という期間を設定することができます。新着情報#238では、製造後10年を経過した乾麺の官能検査の結果をご紹介しましたが、このような優秀な製品であれば、賞味期限10年をつけることも可能です。しかし実際問題としては、このように長期間保存することは現実的でなく、またこのような長い賞味期限の商品を見かけたことはありません。非常食ならいざしらず、そもそも10年間保存しておいて食べようとしても、きっと忘れてしまうに違いありません。
さて、「賞味期限はいくら独自で設定してもいいよ」とは言っても、ある程度の指針はあった方が、製造者、消費者双方にとって望ましいでしょう。そこで乾麺については、全国乾麺協同組合連合会(以下、全乾麺)という業界団体が、一つの目安としての賞味期限を設定しています。これは資料がちょっと古くなりますが、全乾麺が農林水産省食品総合研究所に依頼して実施した「乾麺類の貯蔵試験(1975.4~1976.3)」に基づくもので、現在では一応これが乾麺類の賞味期限の目安となっています(右表参照)。
ところでこの賞味期限を見て、疑問に思うのは、「なぜうどん1年、ひやむぎ1年半、そうめん2年とそれぞれに違うのか?」ということです。原料小麦粉に含まれるたんぱく質の量に多少の違いはあっても、基本的にはみな同じ小麦粉から作られた乾麺なのに、太いや細いだけの違いでなぜ、賞味期限が違うのかという素朴な疑問です。これについては麺の太さの違いが原因していると(#238)でも触れましたが、ここではもう少し詳しく考えてみます。
グルテンは小麦だけに含まれる特別なたんぱく質で、その特徴は何と言ってもその粘弾性(粘性+弾性)にあります。小麦粉生地が切れずに繋がっていられるのは、その粘性によるもので、うどんを噛んだ時に「跳ね返り感」を感じるのはその弾性のお陰です。しかしこのグルテンも時間と共に劣化します。つまりそのしなやかさは時間と共に失われ、グルテンは徐々に脆く、硬くなり、そして粘りを失います。たとえば、野ざらしのゴムボールが、雨風にさらされ、徐々にひび割れ、弾まなくなるようなものです。
これが麺の食感にどんな変化をもたらすかというと、製造後間もない乾麺はゆでると、しなやかなグルテンのお陰で粘弾性があり、噛んだ時に「跳ね返り感」を感じます。これが歯ごたえであり、うどんのコシを形成しているひとつです。しかし長期間保存しておくと、グルテンは劣化し脆くなり、しなやかさがなくなります。この状態でゆでると、噛んだ時の食感が硬くなり、跳ね返り感もなくなり、極端にいうと羊羹とかういろうのような食感になります。
ただ興味深いのはこの食感の変化(劣化)が、うどんとしては好ましくないと感じるのに対し、逆に細い素麺では、これが「コシコシ感」(これを『厄(やく)』といいます)としてプラスに評価され、これが賞味期限が異なる理由です。特に手延べそうめんは、製造工程で食用油を塗布するなど製造方法が異なることもあり、製造後2年、3年経過したものが更に好まれることもあるので、それだけ賞味期間を長く設定しています。
一方、色調、外観、匂い、食味については、製造後新しい方が好まれるという官能検査の結果があります。うどんとそうめんでは多少違いはあるものの、一般的な傾向としては、新しいほど色が冴え、匂いや食味も良いということになります。つまり簡単にまとめると次にようになります:
①そうめんなどの細い麺は、ある程度時間が経過した方が、食感が良くなるのに対し、うどんなどの太い麺は、新しい方が好まれる傾向にある。
②色調、匂い、外観、食味などは新しい方がより好まれる傾向にある。
③上記①と②が、うどんとそうめんの賞味期限が異なる理由です。