#293 H23年度産「さぬきの夢」の作況
昨年(H22年度産)の「さぬきの夢2000」の作況は、2年続きの不作であると#242でお伝えしました。不作の原因については、H21年度産は「播種期の降雨により播種が十分にできなかったこと」、またH22年度産については、「春先からの低温による成長不良によるもの」でした。それぞれ理由は違うものの、2年続きの不作のため、我々地元の製粉会社も「さぬきの夢」の在庫が底を尽きかけ、今年が3年連続の不作となれば、「いよいよ欠品も致し方無いか!」と覚悟していたところでした。少々大げさではありますが、兵糧攻めに遭った戦国武将の気持ちがわかったような気もします。
さて結論から言うと、今年の収量は平年並みで、3年連続の不作は回避され、とりあえずほっとしているところであります。過去5年間の収量は画像の通りで、3000トン少々の不作が2年続いた後、今年は5000トン近くとれたので、一息つきました。これで取り敢えずは、来年の収穫時まで「さぬきの夢」の小麦粉を供給し続けることができます。昔は、不作であっても、「売り切れ御免」とか「ない袖は振れぬ」で済まされた良き時代でしたが、今は原産地表示問題とかがややこしく、すんなりいかないので本当に良かったです。
ただ今年の場合、収量はそこそこ確保できましたが、品質を考慮すると手放しで喜ぶわけにもいきません。次の画像に1等麦比率の欄がありますが、「さぬきの夢2000」が39%であるのに対し「さぬきの夢2009」のそれは0%、つまり全量2等麦となっています。品質低下の理由は、#286でもお伝えしましたが、5月末にやってきた季節外れの台風の被害によるものです。それまで丹精こめて順調に育ってきたものが、たった一晩の大雨によって大きな被害を受けたからです。
ところで2品種の1等麦比率に違いについて補足しておきたいと思います。つまり「さぬきの夢2000」は39%であったのに対し、「さぬきの夢2009」はなんで0%であるかの理由です。全くの個人的見解ではありますが、それは「さぬきの夢2009」の多収性が一因であると考えます。#285でご紹介したように、「さぬきの夢2009」の穂長は明らかに、「さぬきの夢2000」のそれよりも長く、よってそれが「さぬきの夢2009」の多収性の大きな要因です。
実際、今年は2品種が栽培されていた圃場を時々観察してみましたが、麦秋の直前では「さぬきの夢2000」の穂は直立していたのに対し、「さぬきの夢2009」の方は穂の重みでかなり垂れていました。そして台風一過後の圃場をみると、「さぬきの夢2009」の圃場においては、かなりの面積の麦が倒伏し、それが品質低下につながったものだと考えます。多収性を追求すれば当然穂先は重くなり、よって倒伏する可能性は高くなります。小麦の育種の目標は、高品質のものを沢山栽培することですが、「あっちを立てればこちらが立たずといったカンジ」でなかなか難しいもものがあるようです。
余談ではありますが、今回の収穫結果をみて、農業というのはつくづく難しい職業であると思わざるを得ません。つまりすべてが順調に推移していても、たった一度の災害ですべてだめになることもあります。それに加えて小麦にしろお米にしろ、農作物の多くは1年に1度しか収穫できません。つまり何か意欲的もしくは先進的な方法を実践しようとしてもチャンスは1年に1度しかありません。よって余程周到に計画を立てて、やらないとうまくいかないし、しかもそれは自然が相手なだけに、ちょっとした気象の変化によって大きく影響されるので、なおさら難しいことです。反面、屋内での作業、例えばうどんなら一日に何度でも試作することができます。言い換えると頑張りさえすれば、短期間にかなりの高品質のものを作り出すことも可能です。よってそういう点では、食品産業に従事する人々は恵まれています。
話は戻り、さぬきでは今年から再来年(H25年度産)にかけて、小麦は全量「さぬきの夢2009」に切り替わる予定です。そして繰り返しになりますが、さぬきの小麦は今後「さぬきの夢」という統一名称で呼ばれるようになります。今後共「さぬきの夢」をどうかよろしくお願い申し上げます。