#296 足踏み再考・・・その①

生地の足踏みについては、#40#41#114#115で取り上げましたが、ここでは簡単に、というか別の視点でまとめてみました。少しでも皆様の理解のお役にたてれば幸いです。

①足踏みの効果十分に引き出すためには、その前段階の「水回し」が同様に重要。
足踏みは「捏練」といって生地を捏ねる大切な作業で、これによってグルテンが発生し、小麦粉は粘弾性のある生地へと変化します。具体的には、次のように小麦粉中のグルテニンとグリアジンが水と一緒になり「捏ねる」という動作が加わることによってグルテンに変化します:

   小麦粉 + 水 + 捏ねる + 適温で放置(熟成) → グルテンの生成

しかし、この前段である水回しが不十分であれば、いくら上手に足踏みをやってもその効果は半減です。つまり水が均一に行き渡ってなければ、あるところは水が多く溜り、違うところは粉だけのところもできてしまいます。そして水のない部分は、いくら捏ねても粘弾性をもったグルテンが発生せず、よってこの部分はうどんになったときも、脆くそして粉っぽくなります。

水回しは重要であるにも拘らず、時に軽視されがちになる一つの理由は、そのできの良し悪しが、外観だけでは分別しにくいことにあるのかも知れません。つまり水回しがうまくいっても、いかなくても、一旦生地に丸めてしまえば、全部同じに見えてしまい、その違いがわからないからです。ですから水回しを丁寧に行い、できれば予備熟成(#114)を一緒にやれば、足踏みの効果は更にアップすること間違いなしです。

②足踏みには適正な時間がある(長すぎても短すぎても良くない)。 
手打ちうどんを作るとき、「生地の足踏み時間はどのくらいですか?」という質問をよくいただきます。
この足踏み工程は、うどんのコシをだすための重要な工程ですが、この足踏み時間についは、色々な手引書をみても千差万別です。短いものでは5分、長いものでは20分~30分などかなりのばらつきがあり、これが皆さんが悩む一つの理由になっていると察します。足踏み時間の違いにはもちろん理由があります。例えば小麦粉300gの生地と、1kgのそれとでは、当然後者の方が長い時間踏む必要があります。また大人と子供では当然踏む回数も違ってきます。余談ですが今は無きさぬきうどんの名人、高橋繁一氏は8歳の時にうどん奉公し、10歳の頃は挽き臼を背負わされてうどんを踏んだというエピソードもあります。

うどん店でもやってない限り、小麦粉10kgの大きな生地を一度に踏むことはまずないと思いますが、10kgの大きな塊を20分間踏むよりも、それを1kgずつ10個の塊に分け2分間ずつ踏む方が、踏む合計時間は同じでも効率的です。大きな塊だといくら踏んでもその力が分散されるので、時間をかけた割には「捏ねる」という作業が不十分で、またムラができやすくなるので注意が必要です。よって面倒くさがって大きな団子(生地)を一度に踏むよりも、適当な大きさに分けて踏む方が効率的です。

ただ初心者にとっては、適正な足踏み時間の見極めについては、戸惑うことが多いようです。例えば、「初めてうどんを打ったところ、おいしいうどんができた」という話はよく耳にします。するともっと時間をかけて丁寧にうどんを作ると、更においしくなると考えるのは、当然のことです。しかし実際は踏みすぎて生地が硬くなってしまい、結果として弾力がない、ただの硬いだけのうどんになってしまったという話もよく聞きます。つまり足踏み時間を長くすればするほど、コシのあるおいしいうどんができるのではなく、足踏みには適正な時間があるということです。