#303 うどんの食べ過ぎは糖尿病の原因になるか?
先日(2011.9.19)、地元紙(四国新聞)に「うどん好き県民の食生活・食べ過ぎると糖尿病も」という過激な(?)タイトルの記事が掲載されました。この記事の内容は簡単に要約すると次のようになるかと。
①香川県は2008年の厚生労働省調査で、人口10万人あたりの糖尿病患者の比率が全国1位になった(これは全国平均の2倍で、1996年からずっとワースト1位だった徳島県を抜いた)。
②2007年の国民健康栄養調査では、香川県民1日あたりの野菜摂取量は、成人男子がワースト1、成人女子がワースト2。
③香川県民の一日あたりの歩数は、成人男女ともに全国平均を下回っていた。
④うどん文化の中において、あまり噛まない「早食い」傾向が定着している。
⑤よって野菜摂取量の不足、運動不足、そしてうどんの早食い傾向が糖尿病の原因か?
この記事を見て、①⇒②⇒③⇒④については取り敢えず仕方ないとして(裏はとっていませんけど)、⑤でいきなり、「うどんが香川における糖尿病犯人説」みたいな論調になっているのは、少しびっくりしました。確かに香川の人は、うどんを沢山食べるし、早食いする人が多いのは事実ですが、これだけでうどんが糖尿病犯人説と決めつけるのは、いささか短絡的で、うどんが可哀想です。そこでなんでこんな誤解が生じたのか、少し考えて見ました。
周りを見渡すと、皆さん結構野菜を食べているような気がするので、「②野菜摂取量が全国最低」というのは意外で、なぜそうなったのかよくわかりません。ただ「③一日当りの歩数が平均以下」については、なんとなく思い当たるフシがあります。というのは、香川県は日本一狭い県だし(?)、香川に限らず地方に住んでると、すぐ近くのコンビニでも歩かずに、車とか自転車を利用するからです。都会での移動は、電車などの公共交通機関が中心となるので、当然歩数は多くなり、この事実は上京する度に痛感します。ただこういった傾向は、香川だけでなく、全ての地方に共通することです。
で、問題は香川が糖尿病患者#1であるという事実をどう解釈するかです。ここで注意すべきは、糖尿病に限らず、脳卒中、心臓病などのいわゆる生活習慣病は、かつて成人病と言われていたように、高齢の人たちに発症しやすい病気です。つまりグループA(平均年令40歳)とグループB(平均年齢50歳)との比較した場合、当然Bの方が生活習慣病の発生率は高くなるはずです。これを都道府県単位で考えると平均年令の高い県は、低い県よりも生活習慣病患者数は、多い方が自然です。
この事実を少し詳しく考えてみます。実は、香川県に糖尿病患者が多いという事実は、以前から指摘されていて、少し古くなりますが、2006.7.23に「非常事態!香川の糖尿病死亡率」という特集記事が掲載され、その内容は、「香川県では糖尿病死亡率が高いので、なんとかせんといかん」という内容でした(詳細は記事をご覧ください)。
さてここからが本題ですが、単純に私達が都道府県別に死亡数を人口で割り算した値は、通常の死亡率で、これは正確には粗死亡率といいます。よって高齢者の多い都道府県では高くなり、若年者の多いところは低くなるのは当然です。これでは地域間の死亡率を比較しようとしても、年齢格差の影響が大きく、正確に比較することができません。そこで、この年齢構成を補正し、年齢調整した死亡率のことを年齢調整死亡率といい、全ての都道府県がこれを使用することで、地域間の違いを正確に評価することができます。データは少し古いですが、糖尿病の年齢調整死亡率が、厚生労働省のHPにありました。これをみるとH12の香川県の死亡率は平均より僅かに上で、東京都のそれとほぼ同じです。
このように香川県の糖尿病死亡率は、それほど高いわけではなく、よって「うどん犯人説」も当然当てはまらないことになります。そういえば以前「食べればやせる・讃岐うどんダイエット」という本もありましたが、タイトルだけで判断するに、冒頭の主張とはまるっきり正反対で、これも額面通り受け取るわけにはいきません。何れにしても、話題性があるということは、それだけ有名税として考えれば名誉なことかも知れません。