#309 TPPを考える・・・その③

このように多くの農産物分野と同様、製粉産業にとっても、TPPは黒船来襲みたいな感じで、「TPP、どっちがいいですか?」と聞かれると、ズバリ「参加したくない」というのが本音です。しかしもし国策として決まったなら、新しい環境の中で頑張るしかありません。以上、悲愴感たっぷりのかなり暗い見通し予想となりましたが、現実を直視することが大切だと思います。

では一般消費者にとってのTPPはどうでしょう?これについてはプラスマイナス両面があると思います。勿論、小麦粉製品の価格が下がるので(うどん一玉当り約2円)、歓迎すべきことです。一方、食料自給率が下がるので、これは精神衛生上は好ましくありません。というのは不測の事態によって食料輸入が滞る可能性だってあるからです。そこで最後にTPPと食料自給率との関係を考えてみたいと思います。

ご存知のように日本の食料自給率は、先進国中ぶっちぎりの最低で、現在40%を切っています。そしてもしこのままTPPが発効されると自給率は更に下がるのは明らかです。しかしそれは「ちょっとまずいな!」と感じる方は多いと思います。では内麦振興策を講じればいいじゃないかと言っても、話はそう簡単ではありません。もしTPPが発効されれば、小麦や小麦粉は国際価格でベースになるので、内麦を存続させるのであれば、その差額を私たちは何らかの形で負担する必要があります。

外麦は33円/kgに対し内麦は150円/kgとその差は117円。よって現在の生産規模の100万tを補助しようとすると、その負担額は国民一人当り年間936円(=1170億円÷1億2500万人)。そしてもし内麦の生産量を200万tに増産したいのなら負担は、1872円と倍増します。このように自給率を上げようとすれば、負担はどんどん膨らんでいきます。食料自給率を上げることの重要性は、誰もが理解していますが、財政状況が厳しい折、これを達成するのはなかなか難しいことです。一般に食料自給率を一定水準維持することの重要性は大きく次の3つの理由があると思います。そして後は、自給率維持とそれに伴う負担を天秤にかけ、私たちがそれをどう判断するかです。

①食料安全保障
2011年10月31日に世界人口が70億人に到達したと推計されているというニュースは、まだ記憶に新しいと思います(恥ずかしながら小学校の教科書では32億人だったかと・・・)。そしてこのままで推移すると2050年までに90億人を突破すると予想されています。こう考えると、食糧危機が近い将来やってきそうな気配で、それに備えて多少コストが高くついても国内での自給率を上げておきましょうというのが、食料安全保障の考え方です。

たとえ食料危機になったとしても、まだお金を出せば食料が買えるうちはいいかも知れません。現在の日本経済は好調とは言えませんが、史上最高値とも言われる円高のお陰で「円」の購買力は絶大なものがあります。しかしこれは相手に物を売ってもらえて、初めて価値があるものです。まだ記憶に新しいところでは、世界的な穀物不作のときに、ロシアは2010.8.15~2011.6.30の期間、全ての穀物の輸出を禁止しました。つまりこういう状況下では、お金があっても小麦を購入できません。よって今後想定される穀物不作や食料危機に備えて国内で自給率を維持するという考えは大切です、っと私たちは考えるのですが、いくら業界の人間が、声を大きくして言ったところで、所詮我田引水の域をでないのかも知れません。

②安全性
2008年のことですが、輸入冷凍餃子に殺虫剤成分メタミドホスが含まれていたために、中毒事件が起こったことは記憶に新しいところです。現在輸入されている外麦には、数100項目にも及ぶ農薬検査が課せられているので、内麦と同等もしくはそれ以上に安全性は保証されていますが、一般論として国内生産すれば、管理がやり易く、安全性が確保され易くなります。

③環境保全
都会では気になりませんが、地方に住んでいると農家が高齢化した結果、耕作できなくなり、耕作放棄地がどんどん増えています。先祖伝来の田畑が荒廃していくのを見るのは何とも忍びないものです。地産地消や身土不二の観点からもできるなら国産が望ましいと考えます。