#318 小麦粉のタイプ②・・・強力粉・中力粉・薄力粉
小麦粉に水を混ぜてよく捏ね、暫く放置した後に、ぬるま湯で洗い流すとグルテンがとれます。グルテンとは、ぶよぶよした粘弾性を持ったチューインガムみたいなものですが、これが小麦粉に含まれるたんぱく質です。強力粉は多くのたんぱく質を含んでいるので、グルテンも大きく、一方薄力粉は少ないので、小さなグルテンになります(#194)。
何れの場合も、このグルテンのうち2/3は水で、グルテンそのものは1/3程度です。このグルテンは水を含んでいるので、正確にはウェット・グルテンといい、日本語では湿麸(湿麸)と言います。つまりグルテンとたんぱく質の間には次の関係が成り立ちます:
小麦粉に含まれるたんぱく含有量 ≒ (ウェット)グルテン×1/3
このようにグルテンは自分の重さの2倍の水を保持でき、この保持力はでんぷんと比べてずっと大きなものです。よってたんぱく質が多い程、生地を捏ねるために沢山の水が必要で、また生地がもつ粘弾性も大きくなります。グルテンは活性化した状態では粘弾性がありますが、加熱すると失活(活性を失う)して硬くなます。小麦粉生地はよく建物に喩えられますが、このときグルテンが鉄筋、そしてでんぷんがセメントの役割をします。チューインガムのようなグルテンを見ていると、鉄筋のイメージには程遠いですが、失活して硬くなると鉄筋らしくなります。
限られたグルテンを、最大限に効率良く、また強靭な鉄筋にするためには、十分に混捏し、適度な条件で熟成させることが必要です。水合わせをおろそかにしたり、熟成が不足したりすると、グルテンが十分に作られず、またできても脆いものになってしまいます。その結果、うどんが切れたり、角がとれたり、また食パンも膨らみが悪くなったりする原因になります。
食パンには強力粉が適しています。理由は、アルコール醗酵によって生地が膨れるときに、それを支える鉄筋(グルテン)の量が多いほど、生地を支える力が強く、その結果パンが膨れるからです(#153)。好みは千差万別ですが、一般的な傾向としては、膨らみの大きい方が柔らかく、ふんわりとしているので、好まれます。物は試しに、強力粉、中力粉、薄力粉それぞれでHB(ホームベーカリー)を使ってパンを焼いてみて、社内で食味試験をしてみました。最初は、中力粉(うどん用粉)や薄力粉(ケーキ用)なんかでパンが焼けるのかと思いましたが、意外とうまく焼けてびっくりしました。
パンの膨らみは、画像の通り、グルテンの量に応じて、①強力粉>②中力粉>③薄力粉となりました。17人投票の結果は①16票②0票③1票と、強力粉で焼いたパンの人気がダントツでした。①はもっちりソフトで食味も良いのでこの結果は当然です。ただどれもちゃんと食パンの味がするし、②は①ほどではないにせよ、もっちりしてかなり旨いと感じました。ただ②は①と比較すると、どうしても若干評価が落ちるだけのことです。先日、「知らずにずっと讃岐すずらん(中力粉)でパンを焼いていた」という方がいらっしゃいましたが、合点がいきました。③は①や②と比較して明らかにぱさついていて、膨らみが少ない分硬くなり、①や②と比較して評価が落ちます(でも1票獲得しました)。
よって「食パンは強力粉でなければできない」ということはなく、どんな種類の小麦粉でもそこそこの食パンは焼けます。ただ選択肢がいくつかあったら、やっぱり強力粉がベストということになります。発展途上国では、食料危機に瀕している国々がたくさんある中、私達日本人は本当に恵まれていると思わずにはいられません。