#322 フォーリングナンバー試験機
でんぷん質は小麦粉の中で約70%を占める一番多い栄養素です。よって当然小麦粉の性質にも大きな影響を及ぼします。とくにうどん生地の「つなぎ力」に着目すると、加熱する前の主体はグルテンであるのに対し、加熱するに従い、それは徐々にでんぷんへと移ります。つまりでんぷん粒が水分を吸収しながら膨化し、糊化することによって粘性が増加します(#193、#194)。加熱を続けるとやがて粘度は最高になりますが、その最高になったところを最高粘度、もしくはピーク粘度といいます。
この最高粘度を測るのはアミログラフという機械が一般的ですが(#271)、これは正確な値がわかる反面、結構手間がかかります。そこでアミログラフの簡便法もしくは簡易版ともいうべきものが、これからご紹介する「フォーリングナンバー試験機」です。これは正確さには若干欠けるものの、小麦試料7gと僅か数分の時間さえあれば、凡その傾向が掴めます。よって諸外国ではそのハンディーさが結構重宝され、小麦の検査済証には大抵このフォーリングナンバー値(以下FN値)が記載されています。別に知ってどうなるものでもありませんが、以下簡単に説明いたします。
アミログラフは小麦粉(60%歩留り)を使うのに対しFN試験機では小麦そのものを粉砕機にかけ使用します。次にこの全粒粉の懸濁液を一定条件下で加熱します。するとでんぷんが糊化し粘性が増加します。ここでこの懸濁液を試験管に入れ、この中に先に輪の付いた攪拌棒を落下させ、それが底に落ちるまでの秒数をFN値といいます。このとき懸濁液が粘っているほど、攪拌棒は抵抗を受けるので、それだけ落下に時間がかかりFN値は大きくなります。つまりアミログラフのピーク粘度とFN値には正の相関があり、大体次のグラフのような関係があると言われています。ただこれは点線の部分の範囲では上下にずれる可能性があり、これは特にFN値が300以上で大きくなります。言い換えると300以上ではかなり誤差が大きくなるということです。
さて話は戻りますが、アミログラフのピーク粘度が400BU以上のものは問題ないけれど、300BU以下になると徐々に作業性が低下してきます。つまり加熱してもでんぷん粒が糊化しないため、膨れず、またつなぎ力が生じないために、ケーキが膨れなかったり、うどんが切れたりして使い物になりません。(#277)でご紹介したウエスタンホワイト小麦の例は、この低アミロ小麦の弊害が初めて認識され、大きな問題となったケースです。
ピーク粘度が低くなるのは、穂発芽といって収穫直前の小麦が降雨に遭い、発芽することが原因です。つまり「穂発芽 ⇒ α-アミラーゼ活性が強くなる ⇒ でんぷんが分解されてしまう ⇒ 加熱しても糊化しない ⇒ いつまでたっても粘らない ⇒ つなぎ力を生じない ⇒ 製品ができない」となります。
FN試験機を使用する一番の理由は、当該小麦のα-アミラーゼ活性の強さを、手っ取り早く知るためです。正常な小麦と品質の悪い小麦の中間部分、所謂グレーゾーンの小麦に対しては、FN試験機は感度が良くないと言われていますが、これだけ海外で普及している理由は、そのハンディーさが欠点を補って余りあるからです。(財)製粉振興会にお聞きしたところ、FN試験の存在意義は2つあるそうです。
①小麦の流通過程などの現場で、素人でも簡単に行える。
②全粒粉で分析するので、小麦全体の被害の有無を把握しやすい。
よって現場ではFN試験機を使用して大まかな情報を機動的に把握し、製粉工場などの製造現場ではアミログラフによる正確な分析といった使い分けがいいようです。