#347 HB使用時、夏場にパンが膨らまない理由

さぬきも流石に朝夕は涼しくなりましたが、日中はまだまだ暑いです。さて小麦粉製品といえば色んなものがありますが、その代表的なものといえば、うどんとパンでしょう。ただ同じ小麦粉製品ですが、うどんは中力粉、パンは強力粉を使用します。本当はどんな小麦粉でも、うどんやパンを作ることはできますが、飽食の時代である現在、私たちは少しでも美味しい食品を食べたいという欲求があるので、製品に応じて小麦粉を使い分けます。

つまり強力粉でうどんを作ると、麺がピンピンして食感が良くないし、またうどんの食味を左右するでんぷん質も中力粉の方がうどんに合っているので、うどんには中力粉を使用します。そしてパンについていえば、焼き上げたときにふっくらと膨らまないと美味しくないので、そのためにはグルテンを多く含む強力粉が適しています。つまり膨らまないとパンの密度が大きくなり、硬くなるので、美味しく感じません。もちろん膨らんだからといって、必ず美味しいとは限りませんが、ぺっちゃんこのパンは、まず美味しくありません。よってパンは膨らむことが必要条件なのです。

ところで最近のホームベーカリー(以下HB)は良くできていて、材料を簡単にセットして、スタートボタンを押すだけでできたてほかほかのパンが焼けます。またタイマーセットすると、パンの芳しい匂いで、目を覚ますこともできます。このように殆ど完璧無敵のHBですが、稀に「HBでパンを焼いているけど、夏場になると膨らみがイマイチ」というご意見を頂戴することがあります。弊社でも毎日2台のHBを並べて、何度か焼いていますが、確かに気温が30℃を超えると、膨らみが良くないことがあります。

パンの入門書を見ていると、「梅雨から夏場にかけての季節は気温も上昇して、パンの醗酵には適している」とあります。よって本当は、夏場はよく膨らまないといけないはずなのに、実際には逆の現象が起きています。そこで少し調べたところ、温度が高すぎて醗酵し過ぎている、所謂「過発酵」もしくは「醗酵過多」が起きてしまい、膨らみが良くないのだろうということになりました。
少し専門的になりますが、パンが膨れる理由は簡単に言うと次のようになります。つまりイースト中の酵素が、生地中で糖分を分解して、炭酸ガスを発生させます(アルコール醗酵、#153)。すると生地も膨らみますが、その生地を支えるのが立体網目構造を形成しているグルテンの働きです。よっていくらイーストが頑張って炭酸ガスを出しても、それを支えるグルテンの量が不足すると、また縮んでしまいます。パンに強力粉が適しているのは、たんぱく質、つまりグルテンを沢山含んでいるからです。

一方イーストは植物というか、カビと同じ菌類ですのでその活動が適した温度帯、つまり最適な培養温度があり、それは28~32℃、また品質と増殖効率からみた高温限界は38℃と言われています。よって暑ければ暑いほど良いというものではなく、暑すぎるとやっぱりイーストもへばるのです。そこでHB使用時の高温対策としては次のようなことが挙げられると思います。

①冷水の使用、つまり冷蔵庫で冷やした水を使います。
②小麦粉も同様に冷蔵庫で冷やす。
③水を少し減らす。
④発酵時間を短くする(といってもこれはHBでは通常設定できません)。

ただ経験則ですが、これ以外にも有効な方法として、「全粒粉コース」を選択するのも一案です。実際2台のHBを並べ、片方は通常の「食パンコース(4時間)」、もう片方は「全粒粉コース(5時間)」を同時にやったところ、後者の方がよく膨れました。また通常の「食パンコース」でもタイマーセットで長時間(6~7時間)かけた方が良く膨れるようです。理由はよくわかりませんが、ミキシングによって高温になった生地が、時間をかけることによって、冷却されるからだと考えます。