#352 最近のASW事情

現在うどん用小麦として、品質的に一番安定していて、また量的にも多く使用されている銘柄が、オーストラリア産小麦ASWであることは周知の事実です。日本には年間80~100万t程度が輸入されていて、香川県では年間6万tの小麦粉がさぬきうどんになっていますが、その90%以上はASWであると推定されています。弊社新着情報でも、ASW関連のものとして、次のようなものがあります:

 

#019   2006_01_14  オーストラリアの小麦畑
#020   2006_01_15  オーストラリアの個人的な感想
#119   2008_01_22  2007/08年のオーストラリア小麦事情
#267   2011_01_21  2010/11年のオーストラリア小麦事情
#311   2011_12_21  2011/12年のオーストラリア小麦事情

#311には2004年以降の州別生産量のグラフがありますが、これをみるとオーストラリアも結構、旱魃などの気候的影響を受け、生産量にはかなりのばらつきがあります。小麦は元々、乾燥した土壌の方が適していますが、かといって植物なので、ある程度の雨量も必要で、その辺りのバランスが自然相手の農作物栽培においては、難しいところです。例えば最近では2010/11年は、オーストラリア全体では2500万tを超える大豊作でしたが、ASWの産地である西オーストラリアは、旱魃のための大不作でした。

ところでASWという銘柄は単一品種ではなく、多くの品種から構成されていますが、ざっと言うと、ANW (Australian Noodle Wheat)とAPW (Australian Premium White)という2つのグループを一定の比率で混合したものです(#267)。そして読んで字の如く、ANWはうどん用に適した小麦であるのに対し、APWは汎用的な、つまり何にでも使用できる多用途用小麦です。しかし2010/11年は、旱魃のためにANWの生産量が思うように伸びず、そのため昨年はASWにおけるANW比率が例年より少なくなってしまいました。

つまり同じASWであっても、昨年のASW はいつものそれとは若干異なり、結果として、例えばたんぱく質が少し高くなりました。これは機械製麺をされているところでは、その差異が認められない程度ですが、手打ちうどん屋さんの中には、「うどんが、ちょっと硬いかなぁ!」と感じる方もいらっしゃったようです(一般にはたんぱく値が上がると、うどんが硬くなる傾向にあります)。

それでは翌年はどうなったかというと、一転ASWに限っては史上稀に見る大豊作でした。よって当然ANWの比率も元に戻り、そのASW は現在輸入され、製粉されています。それでは品質も一昨年以前の水準に戻ったかというと、そうでもないのです。話を簡単にするために、ASW の例年のたんぱく質含有量を9%としましょう。すると昨年はそれが10%に上がりました。すると今年はそれが再び9%にまで戻るはずですが、実際には8.0~8.5%にまで下がってしまいました。

なぜ下がったかについては、「昨年が大豊作であったため」とか「収穫時に降雨にあったため」とか言われていますが、その真偽は定かではありません。ただどういうわけか、これがうどん屋さんに対しては受けがいいようなのです。つまりたんぱく値が低いために、「うどんがいつもよりソフトでもっちりしている」とか「粘りがある」といった声の方を多く耳にするようになりました。豊作でしかも品質も良ければ、言うことはありませんが、毎年そういうわけにもいきません。今更ながら小麦は農作物であると思わざるを得ません。

それでは、気になる今年はどうかといえば、西オーストラリアは旱魃気味で、生産量は昨年を大きく下回るようです。しかし昨年の在庫が充分にあるため、来年にかけてはそれほど需給が逼迫することはないだろう、との見込みです。また最終的な収量が確定しましたら、ご報告したいと思います。