#353 日本の製粉事情

「現在日本に製粉会社はいくつあるでしょう?」。一口に製粉会社と言っても、色んな穀物を連想するかも知れませんが、ここでは小麦の製粉会社のことを指します。小麦粉以外の粉を扱っている場合は、◯◯穀粉と呼ぶ方が、誤解が少ないのではないかと思います。それはともかく、実はこのテーマは(#110)で取り上げました。結論をいうと1965年当時、434社あった製粉会社は、2007年には100社を割り込み99社になりました。

製粉会社数が激減した理由は、製粉産業が装置産業であることが大きな理由です。つまりビール、セメント、食用油、ガソリンなどといった業種同様、製造するためには多種多様の機械設備が必要です。そのため工場建設費が高額になるため、沢山の商品を製造し販売しないと、設備の償却ができないからです。石臼と篩だけで小麦粉を挽くことは可能ですが、それはあまりに非効率で、品質的にも充分なものができず、よってビジネスとしては成り立ちません。現在の製粉工場では、「なぜ10kgの小麦を製粉できないのか」その理由を新着情報#185で説明致しました。

さて話は戻って、現在製粉会社数は100社を割りこんでいますが、実質的には60社程度と言われています。これはどういうことかと言うと、製粉はやってはいるもののその挽砕量(製粉量)は少ない会社が40社程あるということです。そういった会社は、それ以外の製麺、精米などといった事業が主体なので、製粉事業の規模はそれほど大きくなく、よって経営には本質的に関与していない会社です。言い換えると製粉そのものを事業主体とし、それで経営を維持している会社は、およそ60社ということです。

それでは「この60社という数が、多いのか少ないのか?」と聞かれても一般の方には答えようがありません。さぬきには800店のうどん屋さんがあるので、うどん屋さんの数に比べたらかなり少ないのは確かです。因みにお隣韓国には僅か11の製粉工場しかないの対し、中国にはなんと5万工場もあるといいます。またアメリカ、ドイツ、フランスは、それぞれ169工場、317工場、476工場となっています。それぞれ人口や1人当たりの小麦粉消費量が異なるので単純な比較はできませんが、ただ各国に共通しているのは、その工場数が減少傾向にあるという事実です。

日本の製粉産業をもう少し詳しくみてみます。下図は60社をシェア順に並べたものです。一見10社程度しか表示されてないように見えますが、実はそれから以降は規模が小さいためにほとんど見えないからです。つまり一口に60社といっても、上位10社とそれ以下はかなり規模が異なるということです。

更にこのシェア順を、累積シェアで表示すると下図のようになります。これをみると上位5社でほぼ80%、そして上位15社で90%を占めるようになります。言い換えると下位45社のシェアは10%しかないということになります。今後TPPといった大問題を控え、製粉産業も大きな変革の時期を迎えつつあり、中小製粉がこれからどうなるのかは、誰にもわかりません。

以下は我田引水です。一口に小麦粉といっても60社の製粉会社があれば60種類の小麦粉ができます。これは同じ銘柄の小麦を製粉しても、それぞれの工場の規模、設備、挽砕方法などが異なるので、できあがる小麦粉も微妙に異なるということです。同じ銘柄の小麦粉でうどんを打っても、うどん屋さんによってできるうどんが違うのと同じことです。

皆さんがわざわざさぬきにうどんツアーに来ていただける、一番の理由はうどん店の多様性にあると思います。つまり色んなお店て、違う味のうどんが楽しめるから、これほどまでに普及したのだと思います。もしさぬきのうどん屋さんが大型店10店舗だけになってしまったら、うどんツアーの魅力はほとんどなくなるでしょう。私たち中小製粉も、個性ある製品を今後共ご提供できるよう、製粉産業の多様化を継続していこうと思っています。