#358 製粉と小麦粉のお国ぶり・その②
さて小麦粉の生産量や工場数が多いからと言って、一概に製粉産業が盛んであるとは限りません。というのは人口が多いところは、当然多くなるからです。そこで其々の人口に基づいて、「1工場当りの生産量」、「人口当りの工場数」、そして「国民一人当りの生産量」を計算したのが下の表です。もちろん前回も申しましたが、中には小麦粉の輸出入が活発な国もあり、そういうところはこの表だけでは単純に判断できません。でも凡その傾向はつかめます。
例えば日本の場合、単純に割り算すると、1工場当りの年間の生産量は48,000tになります。これは我々中小製粉からするとかなり大きな製粉工場で、日本における製粉工場の大規模化がかなり進んでいることを痛感します。また人口100万人当りの工場数は、0.79工場となります。香川県は人口100万人なので、単純に言うと1工場で充分ですが、実際には地元製粉会社3工場と、大手製粉会社の1工場の併せて4工場もあります。これはきっと「讃岐うどん」という特殊事情があり、全国でも有数の小麦粉消費県であることが大きな理由だと考えます。
ところで、中国やインドはやたら製粉工場が多いですが、これは単に人口が多いからだけではありません。両者の1工場当りの生産量は、それぞれ1,800tと3,200tなので、他の国々と比べて、工場の生産性がかなり低いことがわかります。つまり小規模な製粉工場が多く、実際100万人当りの工場数は37工場及び20工場と、他国と比べてかなり多いことがわかります。逆にアメリカ、韓国、ハンガリー、カナダ、フィリピンといった国々は、平均規模が年間10万t以上、つまりほとんどが巨大製粉工場で、業界の寡占化がほぼ完了しています。
小規模製粉には、それなりの長所もあるのですが、スケールメリットという圧力に押されて、劣勢に立たされています。何れにしても、これは市場が判断することですから仕方ありません。私たちができることというか、私たちの存在意義は、地域に根ざした独自の小麦文化の価値を、できるだけ皆さんにお伝えすることだと考えています。
話が逸れてしまいましたが、「世界で一番小麦粉を食する国は、どこかご存知ですか?」。意外に思うかも知れませんが、これはトルコの人たちで、平均年間200kgもの小麦を消費します。私たち日本人はうどん、そば、ラーメンなどの麺類に加え、パン、ケーキ、ビスケットなど様々な小麦粉製粉を好みますが、それでも小麦粉の消費量は年間30数kgです。小麦と小麦粉の違いはあるにせよ、トルコの人たちは、我々の5倍以上の小麦粉を消費していることになります(恐るべしトルコの人々!)。
でも考えてみればトルコのアナトリア地方は、1万年以上も前に小麦の耕作が始まった小麦生産発祥の地であるし、また石臼発祥の有力な候補地でもあります(#192)。よってトルコの人たちが小麦粉を沢山食するのも当然と言えば当然かも知れません。小麦粉製品は、ブルグア(bulgur)といった挽き割り小麦を煎った伝統的な食品に加え、リーンな丸形パンが多く食べられているそうです。そしてその丸形パンに使用する小麦粉は、歩留り95%の小麦粉が多く、これはほとんど全粒粉といってもいい位で、これなら食物繊維不足にはまずならないと思います。
またパスタの生産量は年間110万t、そのうちの30万tが輸出用だそうです。日本にはパスタの本場イタリアからのパスタが多く輸入されていますが、近年トルコ産のものが急伸しています。私たちは、漠然と「なんでトルコ産のものを輸入するの?」みたいな感じでしたが、トルコって小麦の本場なんで、それも言われてみれば当然なんですね。