#369 小麦のアレルギー事情

食品アレルギーとは、言うまでもなく食品を食べた時に、アレルギー症状を起こすことを言います。具体的には、じんましん、かゆみ、腫れ、呼吸困難、吐き気、嘔吐、下痢などの症状を引き起こし、時には重篤な生命の危機に関わることもあります。そしてこのアレルギーの原因となる物質のことをアレルゲンといいます。そこで消費者庁はこの問題を重視し、特に発生件数が多く、また症状が重くなり易い7食品(エビ、カニ、小麦、ソバ、卵、乳、落花生)を、特定原材料等に規定し、表示を義務付けています。

厚生労働省の調査による、食品別食物アレルギーの発生状況は下のようになっているので、特定7品目が必ずしも原因別上位7品目になっているわけではありません。ただ何れにしても「小麦」は特定7品目にも含まれているし、原因別でも「鶏卵」、「牛乳」に続く堂々の第3位ですので、バリバリのアレルギー食品であることには違いありません。さてここからは、月間「食生活」第106巻に掲載された「小麦アレルギーの原因と対策(松尾裕彰氏)」の記事を参考に小麦アレルギーについて簡単にさらっとご紹介したいと思います。

「食生活」第106巻・小麦アレルギーの原因と対策より

「食生活」第106巻・小麦アレルギーの原因と対策より

小麦は、米やトウモロコシと並ぶ世界三大穀物のひとつです。私たち日本人の主食は米ですが、近年はパン、麺類、ピザなど小麦粉製品の種類は著しく増え、その存在感は増すばかりです。食品アレルギーの症状は、食品によって異なりますが、小麦アレルギーの特徴としては、食べた直後から2時間以内に、発症する皮膚のかゆみ、じんましん、喘息、腹痛などの症状です。

またアレルギーは、経口摂取つまり食べなくても、小麦に接触により発症することもあります。最近では、加水分解小麦(小麦タンパクを塩酸や酵素で分解したもの)が添加された石鹸を、表示がなかったために知らずに使用して、アレルギーを引き起こしたケースが、記憶に新しいところです。

さて小麦のどこにアレルゲンが含まれているかと言えば、8~12%含まれる小麦タンパク質がその正体のようです。しかし小麦タンパクといっても、その種類は80種類以上と言われていて、具体的には一番多く含まれているグルテン(グルテニン+グリアジン)を筆頭に、20種類以上のアレルゲンがこれまでに発見されています。以前お伝えしたセリアック病(#349)も、もちろんこの小麦タンパクが原因していることになります。

ただ小麦アレルギーも身体の成長に伴い、なくなることもあります。乳幼児に発症した小麦アレルギー患者の65%は、12歳までに自然に小麦を食べるようになることができると言われています。よって小児の場合は、一時的に小麦を控えることによって、自然に耐性を獲得することができる可能性があります。つまり簡単に言うと、「子供の時には小麦アレルギーがあっても、大きくなったら自然に治るよ」ということです。

尚、アレルギーについて一つ注意しておきたい点があります。最近、米粉パンを耳にすることがありますが、米粉パンといっても実際には小麦グルテンが多く使用されていることが多いので注意が必要です。グルテンは粘弾性(粘性と弾性)をもった小麦粉特有のタンパク質で、これによって小麦粉生地は自由に整形ができます。米粉にはこのグルテンがないので、グルテンの力なしには、米粉生地を整形することも、また膨れた生地を支えることできないのです。

近年、小麦アレルギーが増えたといいます。しかしここ20年間の小麦の使用量は年間550~600万t、よって一人当りの小麦粉消費量も変わっていません(#345)。ただ2011年の小麦グルテンの輸入量は2万tと20年前の4倍になっているので、この小麦グルテンの増加が原因のひとつと指摘する向きもあります。ただこれもよく考えてみると、たとえ2万tのグルテンでも小麦粉換算すると20万トン程度なので、個人的にはそれほど影響するとも思えません。やはりライフスタイルや食生活の変化が影響しているのかも知れません。