#371 TPP参加表明・・・重要5品目の行方
ご承知の通り2013年3月15日、TPP参加表明が正式になされました。これで日本は自由貿易へと大きく舵を切ることになります。賛否両論入り乱れる中、どちらに決めても、対立派の支持は得られるわけもなく、かといっていつまでもダラダラと延ばすわけにもいかず、今回のタイミングがラストチャンスということのようです。それにしても、最近は、消費税、原発、TPPと国論を二分する難題続出ですが、なんとか政治主導で日本をいい方向に導いていってもらいたいと、願わずにはいられません。
もし仮にTPPにより、関税が完全に撤廃されたとなると、日本の製粉業界に起こるであろう変化については、一応素人なりに、以前考えてみました(#307、#308、#309)。簡単にいうと、小麦粉及び小麦粉製品の価格は下がります。そしてそれによって国内の製粉工場は更なる経営効率が求められるために、体力にないところは淘汰され、その結果かなりの数が減るであろうということです。ただその結論は正しいと考えますが、その途中の経過については、よくわかりません。高所から水を流すと下に流れるのは分かりますが、実際にはどのような経路を通って下に流れるかは、流してみるまではわからないからです。
ところで現在のところ、TPP参加交渉にあたっては、いわゆる「重要5品目」を関税撤廃の例外となる「聖域」として臨むのが基本スタンスのようです。重要5品目とは、右図にあるようにコメ、麦、肉、乳製品、そして砂糖で、私たちの小麦もとりあえず、この聖域の中に入っています。よくニュースなんかでは、小麦には252%という関税率が設定されていると報道されていますが、これは正確には「小麦1kg当り55円」という定額制です(右下画像、出典:農水省)。つまり為替が変動して輸入価格が上下しようとも、また価格の異なる高い小麦でも安い小麦でも、全て\55/kgの関税を支払えば、誰でも好きなだけ輸入できるということです。
ただ現状の国家貿易制度とでは、\30/kg以上の価格差があるので、「絶対にこの小麦の粉で焼いたフランスパンでなければ嫌だ!」といった特殊事情がない限りは、国家貿易を選択します。実際平成23年度には、国家貿易574万tに対し、民間貿易が2.3万tと、僅か0.4%程度にしか過ぎませんので、実質的には小麦は国家貿易ということになります(右下図参照)。
この制度の違いにより発生する\30/kgの価格差については色々な考え方があると思います。ただ単純に小麦粉歩留まりを60%として計算すると、これはうどん1玉あたり3.5円の差となります(うどん1玉の小麦粉を70gとして計算)。
つまり現在のところは、うどん1玉に付3.5円を負担しているので、小麦の国家貿易は成り立っているとも言えます。そしてその輸入小麦に課せられるマークアップ(#307)が、90万tの国産小麦の補助金の原資になり、日本の心細い食料自給率に貢献していることになります。またそれに関連して地味ではありますが、次のような副産物もあります。よろしければ一般的な消費者の立場からお考えいただければ幸いです。
①北海道における輪作作物
ご承知のとおり、北海道は日本最大の農業生産地で、日本の小麦の60%は北海道で生産されています。そして小麦は、北海道の大規模畑作営農において輪作作物(面積でほぼ100%)として組み込まれています。つまり北海道の輪作体系としては、「小麦⇒てん菜⇒豆類⇒ばれいしょ」が一般的で、小麦は北海道の農業にはなくてはならないものです。
②水田の跡地利用による環境保全
全国的なコメ余りによって、耕作放棄地が増大し、水田は荒廃しつつあります。そういった中において、水田の転作に占める、麦類の作付面積は13%程です。つまり小麦は田畑の景観維持、そして環境保全に貢献しています。