新着情報#406 韓国の製粉事情・・・その③
韓国の製粉企業数は、日本と比較してかなり少なく、従来は8社しかありませんでした。しかし2011年に新しい製粉企業が誕生し、現在9社となっています。話は前後しますが、実は韓国では、1990年に小麦の自由化を実施しました。で、それによりそれまで乱立気味であった製粉企業は8社に整理され、その後20年近くにわたり安定していたわけです。そしてそこへ降って湧いたように、新しい製粉会社が起業したので、今後は一転、供給過多となり、再び競争激化そして業界再編成が始まると言われています。この辺りを少し詳しくみてみたいと思います。
日本の製粉産業においては、新規参入というのはなかなか考えにくい状況にあります。その理由は、現在の製粉産業は、製粉工程が複雑化しているので、ノウハウが必要なことに加え、それ以上に装置産業であるため、建設のための資金も必要です。しかし一方でその設備投資に見合うだけのリターンがあるかといえば、なかなか難しく、よって新規参入は考えにくい状況にあります。実際製粉企業数の推移を見れば、右肩下がりで下がり続けていることからもご理解いただけると思います(#110)。日本では、そういう環境であるにも拘らず、お隣の韓国では、新しく製粉会社が起業したのです。
その新規参入者は、なんと韓国最大手の製パン会社のS社でした。つまりS社は自社で使用する小麦粉を自ら製造し調達することを決断したわけです。家電産業に見られるように、垂直統合型産業は、韓国においてはよく見られる経済構造ですが、それにしてもこれが製粉産業で実行されるとは、なかなか私たち日本の製粉産業に身をおく人間にとっては理解し難いことです。で、どういう経緯で、S社が小麦粉の自社生産に踏み切ったのか、調べてみると、当時の新聞報道記事がいくつか見つかりました。それを簡単に説明すると次のようになります。
S社は原料の小麦粉を、従来大手製粉会社から調達していましたが、1997年に起きた韓国経済危機(IMF経済危機)のとき、決済条件等などの理由により、取引きが中断しました(詳細は不明)。そこでS社は急遽、仕入先を他の製粉会社に変更しましたが、2008年の小麦国際価格暴騰時(#134)に再び小麦粉の入手に苦労することになります。この2度の苦い経験がS社に小麦粉の自社生産を決意させ、2008年7月に国産小麦専用の製粉工場であるM社を買収します。買収当時のM社は生産能力が年間4万t程度の工場でしたが、その後増設が進められ、現在S社の必要量20万tを全て自社製粉できるようになりました。
そしてこれは、暫く安定していた韓国製粉産業の新たな業界再編を意味します。20万tを生産するS社は、一気に業界4位に踊り出ることになります。韓国の小麦粉市場規模は200万t余りなので、S社の生産量20万tは約10%にも相当します。よって需給バランスは一気に崩れ、下位の中小製粉に大きな影響を及ぼすのは必至だと言われています。
以下は全く個人的な見解です。S社はこれまで小麦粉の手当てにおいて、過去何度か辛酸を嘗めたことで、自社生産に踏み切りました。そしてこれと同じような垂直統合が日本でも起きることがあるだろうかと考えてみましたが、多分ないと思います。理由は、日本においては手間とコストがかかり過ぎるからです。つまり小麦を製粉すると、一定割合で1等粉、2等粉、3等粉、小麦ふすまが発生しますが、これを過不足なく処理するには結構手間がかかります。そして何より工場建設には高額な投資が必要になります。ここまで手間とコストをかけて、果たして製粉を始めようというユーザがいるとは思えないのです。もちろん小麦粉価格が高価であれば、そう思う方がでてくるかも知れませんが、日本の小麦粉価格はこなれていて、充分に安価になっているので、そんなことは起こりにくいと思うのです。逆に言うと、ひょっとしたら、韓国の小麦粉価格が高いから、そのような事態になったのかな、とも思ったりします。