#415 うどんテイスティング・・・「さぬきの夢」特等粉 vs. 1等粉
昔の小麦製粉は、水車の駆動力を利用して石臼で製粉していました。上部から投入された小麦は、固定された下臼と左回転する上臼とによって引き裂かれ、中の胚乳部分がでてくる仕組みです。ただ石臼方式は、小麦が挽かれながら周辺部に排出されるまでに、ふすま片(表皮部分)が胚乳に混入してしまい、そうなるともはや両者を分けることは不可能になってしまいます。ふすま片が多く混入すると、パンは硬くてわごわして美味しくなく、うどんは表面がざらついて喉越しが良くありません。
よって昔の人たちは、どうしたら小麦粉にふすま片が混入するのを防ぐことができるのか、大いに悩みました。そして艱難辛苦の末、「段階式製粉方法」を発見し、それを取り入れた世界初の近代的製粉工場が、1879年6月に建設されたウォッシュバーンCミルでした。段階式製粉方法とは、小麦を少しずつ割りながら、一粒の小麦を最終的には40種類以上の上がり粉に取り分ける製粉方法のことです。よって現在は、この40種類の粉を白い順に並べていくつかのグループに分け、それらを1等粉、2等粉・・・と呼んでいます。
少し話がそれますが、精米も小麦製粉も、やってることは同じです。前者は玄米の表面の米ぬか部分を取り除き、白米にすること、また後者は小麦の中心の胚乳部分を取り出すことです。つまりどちらも中心部分を取り出すことですが、両者の難易度には大きな違いがあります。白米は硬く表面の米ぬかは柔らかいため、精米というのは玄米の表面を軽く削るだけでいいのです。地方にはコイン精米機がありますが、これは精米という作業が単純だからできることです。しかし小麦の場合は、胚乳部分が脆く、表皮部分が硬いために、段階式製粉方法が必要になり、その結果どこの製粉工場も大きな建物となっています。
さて前置きが長くなりましたが、「さぬきの夢」を使用してうどんテイスティングをしてみました。小麦粉はどちらも同じ「さぬきの夢」ですが、特等粉と1等粉の2種類を使用しました。特等粉は小麦の中心部分のみ、そして1等粉は同じ中心部分ですが特等粉よりももう少し周辺部分まで挽き込んだ小麦粉のことです。わかりやすく単純化すると、上記の40種類の上がり粉を色の白い順番に#1、#2、・・・、#40とすると、特等粉は#1~#5をまとめたもの、そして1等粉は#1~#10までをまとめたもの、といった感じです。
中心部分の方が、不純物が少ないので、当然灰分値が少なく、両者の分析値は次のようになりました(灰分は小麦粉を高温で燃やしたときに残る灰のことです)。不純物が少ないということは、小麦粉もそれだけ純度が高く、よって色調も白く鮮やかになります。下画像は両者をペッカしてみたものですが、特等粉の方が鮮やかであることがよくわかります。小麦粉の色調は、当然そのままうどんにも受け継がれます。別々にみると違いは良く分かりませんが、一緒に比べると特等粉のうどんは、1等粉のうどんよりも色鮮やかにゆであがります。
そこで「どちらのうどんがより美味しいか?」という疑問に応えて、3人でうどんテイスティングをしてみました。特等粉のうどんは、見た目通りより滑らかで、喉越しも良く仕上がっています。またきめ細かな部分ばかり取り分けているせいか麺質も、より引き締まっていて、この部分については「コシがしっかりしている」もしくは「少し硬いんじゃないか」と意見が別れました。一方食味については、1等粉のうどんの方が、「味がより濃い」ということで一致しました。つまり胚乳の中心部分ばかり集めると、色調はあざやかになり、食感も滑らかになりますが、食味については必ずしもそうではないようです。
食味と食感の優先順位は、各個人によって異なるので、「どちらがより美味しいのか」というに難問の答は、やはり個人の好みによります。ただ品評会に限っていえば、特等粉うどんに軍配が上がります。つまり試食といっても精々1~2本程度なので、味はよくわからず、どうしても食感に頼りがちになります。よって外観、食感に優れた特等粉のうどんの方が、高得点になると考えるからです。