#422 コーヒーをよく飲む人は長生きするのか?
前回の続きです。山本啓一先生の「グルコサミンはひざに効かない」の中で、もう一つ印象に残ったのが掲題の内容、つまり「コーヒーに長寿効果はあるか?」です。コーヒーについては、以前から「肝臓にやさしい」、「糖尿病のリスクを下げる」、「リラックス効果がある」など様々な効用があると言われています。そして「コーヒーを毎日飲むと、長生きするという主張」の根拠が次で、著書から一部引用します。
【コーヒーをよく飲む人が長生きするというのは本当か】
2012年5月、アメリカの国立がん研究所が、延べ40万人を対象に、13年間追跡調査し、コーヒーを一日に何杯か飲む人のほうが飲まない人より死亡率が低い、という報告を発表しました。
報告では、一日4~5杯のコーヒーを飲む男性は、総死亡リスクが12%、女性は16%低下し、死因別では心疾患、呼吸器疾患、脳卒中、外傷や事故などの死亡リスクが減ったとしています。「アメリカの国立がん研究所」という権威あるところが「延べ40万人」もの多くの人々を調査し、「13年間も追跡調査」をしたのだから、「この報告は正しい」と考えるのがふつうです。・・・
一見、権威ある研究所が、40万人もの人たちを対象にし、しかもそれが13年もの長期間のデータに基づいて行われたものであるとしたら、その結果については、普通はまず間違いないものだと考えるべきです。しかしよくよく考えてみると、あながちそう単純には割り切れないようなのです。実はアメリカ社会においてコーヒーを毎日4~5杯飲めるような環境に住んでいる人たちは、社会的にみてどのような位置づけの人たちであるか注意する必要があると先生は、言います。
つまりそういう立場の人々というのは、退職してかなり余裕のある余生を送っている人、もしくはちょっと疲れたときに休憩室にいけば、いつでもサーバーにコーヒーが沸いているような恵まれた職場、つまり業績のよい優良企業に勤めている可能性が高いというわけです。よってそういう職場に勤めている人々は、経済的にも恵まれているので、健康にも気を使うだろうし、健康保険にも入っている可能性が高いというのです。
確かにこういった追跡調査を行う場合、サンプリングは無作為に選ぶのは当然です。しかし無作為に選んでみても、コーヒーをよく飲む人たちと高収入の人たちとの間に、強い相関関係があれば、この無作為に選ぶ方法はあまり意味がないことになります。言い換えると、この統計は一見、コーヒーをよく飲む人と飲まない人を比較しているようで、実は「裕福な人」と「そうでない人」との比較、つまり「生活に余裕があり、健康に気をつける人の集団」と、「そうでない人との集団」を比べている可能性が高い、と先生は仰います。
よって本当にコーヒーが、長寿につながるかどうかを調べるには次のようにする必要があります。まず調査をする条件を同じにするために、年収、健康保険加入の有無、定期的に健康診断を受けているかというデータをとります。そしてその同じレベルの集団の中で、「コーヒーをよく飲むグループ」と「そうでないグループ」に分け、そこでもし、「コーヒーをよく飲むグループの方の死亡率が低い」という結果がでると、初めてコーヒーは長寿に効果があるということができます。そして先生は、もしそのような調査を実施すれば、明確な違いはでないだろうとも予想されます。つまりコーヒーには明確な長寿効果はないだろう、ということです。
何れにしても、統計データの調査方法というのは一見簡単なようで、実はかなり難しいということです。私たちは特定の調査に一喜一憂するよりも、偏食をせず、適度の運動をし、規則正しい生活を送るだけで充分であるような気がします(しかしこれはこれでなかなか実行困難ではあります)。