#427 製麺機で旨いうどんはできるのか?

f427「・・・うどんを延ばしていたら、孫2人が粘土遊びのつもりで、花や魚の型抜きをし、そのまま鍋に入れ、楽しい夕食となりました」。

ある個人ユーザからのお便りです。永い間、小麦粉ビジネスに携わっていますが、こんなに楽しいお便りにはなかなかお目にかかれません。そして改めて子供たちの自由な発想に、ただただ恐れ入りました。それにしてもうどん鉢の中に、魚やお花がプカプカ浮かんでいる光景は想像するだけでワクワクします。さぞかし楽しい夕食になったに違いありません。

ところで手打ちうどんは、美味しいとよく言われますが、それにはいくつか理由があると思います。まず何と言っても、このお便りのように皆でわいわいがやがやと言いながら、和やかな雰囲気の中で作るので、美味しくない筈がありません。気持ちを込めて作った食事は絶対に美味しい筈です。また技術的な立場から言っても、手打ちうどんには美味しく仕上がる理由がいくつもあります。例えば、時間を充分にかけて熟成させるので旨味が増します。また「足踏み」」は適度の圧力を生地に及ぼし、またゆっくりと麺棒で延ばすので、グルテンの立体網目構造がしっかりと形成され、それが手打ちうどん特有のコシを生み出します。

N尾さんは市役所を早期退職され、現在ご自身で趣味と仕事を兼ねた小さなうどん屋さんを経営されています。N尾さん曰く「ぼくは、麺棒でうどんを延ばしているときに、得も言われぬ恍惚感を覚えるんです」っと。最初は冗談かと思いましたが、本気であると知り、二度びっくりしました。私も麺棒で延ばす作業はイヤではありませんが、それほどの恍惚感はまだ味わったことがありません。しかし圧延作業がそれほど好きなら、そこからは素晴らしいうどんができるに違いありません。つまり圧延作業自体が好きなら、放っておいても丁寧に仕上るからです。

逆に失敗するのは、無理な力をかけたり、また圧力が偏るために厚さが不均一になったりする場合で、それは多くの場合、早く切り上げたいがために、時間優先で作業を行う結果です。つまり同じ工程でも、それを嫌々ながらの義務感で行う場合と、趣味つまり好んでする場合とは、その結果は大きく異なります。そしてこれはうどんの作業全般についても同じことが言えます。原理原則を軽んじて、時間優先で作業を行うと旨いうどんはできません。

最初は「純手打ち」で始めても、除々に店が流行ってくると、その手作業もやがて限界に近づきます。全て手作業だと、その内に疲れ果て、身体が思うように動かなくなります。気持ちは頑張っていても、身体がついていかないケースです。すると品質に影響が生じるようになります。「旨いうどんは、純手打ちでないとできない」と考えておられる方は多いですが、商売となると一概にそうとは言い切れないところもあります。かといって生産性や効率性を求めて安易に製麺機を導入したものの、思うようなうどんができないケースもよく目にします。

早い話、製麺機を導入しても、うまくいくケースとそうでないケースがあります。製麺機の一番の利点は、その再現性の良さにあり、それこそいつも判でついたように、同じ作業を同じように行ってくれます。つまり製麺機導入の成否のポイントは、うどん作りの原理原則を把握しているか否かだと思います。原理原則を押さえていれば、高品質のうどんを安定的に製造することができるし、逆に闇雲に使用すると旨味のないただの硬いだけのうどんになったりもします。「◯◯とハサミは使いよう」といいますが、製麺機も正にその言葉がピッタリと当てはまります。あるユーザからのお便りからは、ずいぶんとかけ離れた内容になってしまいましたが、これからも癒やしに、楽しい食生活に、そして商売繁盛にと、みなさん美味しいうどんを作ってください。