#430 全粒粉
「全粒粉」という言葉を聞いたことはありますか?「全粒粉」と書いて“ぜんりゅうふん”と読みます。読んで字の如く、「穀物の粒をそのまま全て粉にしたもの」です。よって小麦全粒粉といえば、「小麦の粒をそのまま挽き込んで、全て粉にしたもの」となります。しかしこれはあくまでも一般常識的な解釈で、実際にはどうなっているかと思い、(財)製粉振興会にお尋ねしたところ、意外にも「日本には基準がありません。小麦粉の定義や基準がないのと同じで、常識的な考え方で流通しています」という回答をいただきました。
つまり日本では、農林水産省とか保健所といった公的機関で、「全粒粉は◯◯という基準を満たしていなければならない」というふうには、決められていないということです。分かりやすいアメリカの例を挙げてみましょう。アメリカにはFDA(Food and Drug Administration = 米国食品医薬品局)という政府機関があり、ここは食品・薬品などを中心に消費者が接する機会の多い製品の認可や違反取締を行う機関です。またそれとは別にAACC (American Association of Cereal Chemists = 穀物化学者学会)という学会があります。そして両機関は、全粒穀物(Whole grains)について次のように定義しています:
“Whole grains shall consist of the intact, ground, cracked or flaked caryopsis, whose principal anatomical components—the starchy endosperm, germ, and bran—are present in the same relative proportions as they exist in the intact caryopsis.”
【訳】“全粒穀物とは、穀物の穎果そのもの、もしくはそれを粉砕、破砕またはフレーク状にしたもので、主要部分である胚乳、胚芽及びふすまが穎果に存在するのと同じ比率で含まれること。
そして(財)製粉振興会では、この定義を次のように解釈しています:「粉砕などで穀粒を分画したものを再構成して製品を作るケースが多いことを想定し、同じ穎果からのものでなければならないとは定めておらず、小麦の場合は、異なるロットの原料からの画分を配合したものでもよいと解釈できる。また配合比率についても小麦での常識的な割合でよいようである」。
上記表現はちょっと硬いので、以下「小麦」の場合について、補足いたします。穎果(えいか)とは実の部分、つまり小麦の粒のことです。また分画(画分ともいいます)とは、「複数の成分が混合された物質を分離させて、その混合物質を構成する成分に分けること」です。つまり小麦の構造は、胚乳、ふすま(表皮)、胚芽の3つの部分(平均的な比率は83%、15%、2%)からできているので、例えばロット1からは胚乳を、ロット2からはふすまを、そしてロット3からは胚芽を抽出して、後でそれらを平均的な比率(胚乳83%、ふすま15%、胚芽2%)で混ぜあわせて小麦全粒粉を作ってもよいという意味です。
また平均的な構成比は、83%、15%、2%となっていますが、小麦は色々な種類があり、その種類によって構成比率は異なるし、また同じ小麦でも丸々と太った実とやせ細った実では、その比率は違います。よって後で画分を配合するときは、厳密に83%、15%、2%でなくても、常識的な範囲で混ぜあわせてもよいという意味です。よって「全粒粉」というときに、「同じ小麦をそのまま丸ごと粉にしたもの」という規定だけではなく、「同じ小麦のものではなくても、平均的な小麦粒と成分組成が同じであれば、全粒粉といってもよい」ことになり、これが広義の全粒粉の考え方です。整理すると次のようになります。
【全粒粉①(狭義)】
ある小麦をそのまま丸ごと製粉してできあがった小麦粉
【全粒粉②(広義)】
同じ原料の小麦から作られたものでなくても、その小麦粉の成分組成が全粒粉にほぼ等しいもの、つまりその比率がほぼ、胚乳83%、ふすま15%、胚芽2%となっている小麦粉。
①も②も同じ成分組成なので、どちらでも良いことになりますが、中には「①でないとだめだ」と思う方もいるでしょう。しかし個人的には、より緩やかな②を支持します。理由は、食味がずっと良いからです。小麦の表面にはクリーズ(粒溝)といって縦に深い溝が走っていますが、そこは凹んでいるので、当然塵や埃がたまりやすくなります。よって粒のまま小麦を挽き込んでしまうとどうしても雑味が足を引っ張り、全体の食味を損ねることになります。一方、②の基準を適用すると、胚乳部分はグルテンの伸展性の良い部分だけを、そしてふすま部分は、塵や埃のないきれいな表皮部分だけをとりだし、両者を合わせれば、食味の良い全粒粉ができあがります。食物繊維をたっぷり含んだ全粒粉を摂取することは大切ですが、食物として摂取するのであれば、食味が良くなければ続きません。それが②を支持する理由です。