#436 アンチ「糖質制限ダイエット」本2冊

f436ここ数十年で私たちの社会は急速に豊かになり、先進国においては誰もが欲しいものを好きなだけ食べることができるようになりました。しかしその結果、今やどこの国においても、「肥満」が社会的大問題となっています。肥満度の目安となるBMI(=体重÷身長÷身長)が30以上となると正真正銘の肥満体型と判断されますが、これは(身長170㎝,体重86.7kg)、(身長175㎝,体重91.2kg)となるので、その大きさが改めて実感できると思います。

ちなみに先進30各国が加盟するOECDが発表した2009年データによると、BMI30以上の肥満者の割合は、加盟国平均では15.4%でした。日本も最近は、太った人が目立ちますが、意外なことに僅か3.4%でこれは加盟国中最下位です。一方トップはアメリカの34.3%で、なんと3人に1人が立派な肥満体型ということになります。肥満は、医療費高騰の原因だけではなく、健康生活そのものの障害となるため、今や世界各国どこも、「ダイエット」には力を入れていますが、なかなか「これだ!」という決定打はまだないようです。

そこで最近再び耳にするのが、「低糖質ダイエット」なるもので、#397でご紹介した「小麦は食べるな!」も、糖質を控えるという点で、同様のダイエット方法です。しかし「低糖質ダイエット」を主張すれば、「低糖質ダイエットは良くない」という意見も当然でてくるわけで、今回は逆の立場の本を2冊、「本当は怖い『糖質制限』(岡本卓著)」と「世にも恐ろしい『糖質制限食ダイエット』(幕内秀夫)」を、ざざっと目を通してみました。職業柄当然こちらを支持したくはなりますが、そこはグッと堪えて、印象に残った点をいくつか独断で書き出してみました。

①糖質を制限すれば、短期的にはやせるが、その後は他のダイエット方法が優れている。
糖質をとらないと、カロリー摂取量が極端に減少するので、最初はよく体重が落ちると言われている。しかしその後は他のダイエット法の方が効果が大きいという、研究結果が報告されている。
②糖質制限ダイエットの、有用性及び安全性はまだ確立されていない。
「糖質制限ダイエット」の効用やその安全性に関する研究は、まだ始まったばかりで、その科学的根拠はまだ明らかになっていない。つまり時間をかけた科学的な臨床試験によって、その有用性(もしくは有害性)が証明される必要がある。
③糖質制限による微量栄養素の不足
糖質制限ダイエットを実践すると、ビタミンB1、葉酸、ビタミンC、鉄などの微量栄養素が圧倒的に不足しがちである。
④糖質制限が原因とされる病気が報告されている。
糖質制限による極端なダイエットにより、「がん」、「うつ病」、「認知症」、「骨粗鬆症性」、「心臓病」、「脳卒中」が増大するといった研究結果が報告されている。
⑤糖質制限ダイエットは、新しいものではない。
アトキンス博士(アメリカ)が1970年代に提唱した、「アトキンス・ダイエット」は内容的には糖質制限ダイエットと同じである。またそれ以前の1956年、日本でも和田静郎氏が「ごはんやパンなどをとらずに痩せる」という「和田式食事法」を提唱したが、これも糖質制限ダイエットである。
⑥日本糖尿病学会は、糖質制限ダイエットを支持しない。
「炭水化物を総摂取カロリーの40%未満に抑える極端な糖質制限は、脂質やたんぱく質の過剰摂取になるつながることが多い。短期的にはケトン血症や脱水、長期的には腎症、心筋梗塞や脳卒中、発がんなどの危険性を高める恐れがある(2012年7月27日付読売新聞掲載の日本糖尿病学会理事長の意見)

【個人的な感想】
食の三大栄養素といえば、炭水化物・たんぱく質・脂質を指しますが、これらはそれぞれに役割があります。よってダイエット効果があるといって、特定の栄養素だけを極端にカットしてしまうのは、個人的にはどうも抵抗があります。もちろん、「低糖質ダイエットによって減量できた」という事実も理解できますが、この事実をどう判断するかについては、②の結果を待ってからでも遅くはないと思います。また③の微量栄養素が不足するという主張は尤もだと思うし、⑥の「日本糖尿病学会が、糖質制限ダイエットを支持しない」という事実は、医療に関わる公的機関の発言だけに、説得力ある重い発言であると考えます。ちなみに私の知人もこれまで何人かが糖質制限ダイエットに挑戦しましたが、どういうわけか皆さん、数ヶ月でギブアップしてしまいました。

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