#439 ①塩入りうどんvs.②塩抜きうどん
「土三寒六常五杯」という有名な口伝は、うどん作りにおける塩水の調合方法のことで、「茶碗一杯の塩に対し、夏場は三杯、冬場は六杯、そして秋冬は五杯の水で薄めた塩水を使用しなさい」ということです(詳細は例えば#321)。塩にはグルテンを強靭にする効果があるので、夏場の暑い時期には生地がだれるのを防ぐために、塩水濃度を高くし、逆に冬は生地が延びやすいように、低くします。何れにしても、さぬきうどんにとって塩は必要なものです。
しかし先日あるうどん屋さんから「塩抜きうどんはできんやろか?」との質問をいただいたのでチャレンジすることにしました。そのうどん屋さんの真意は、多分最近の健康志向を受けて、「少しでも塩分の少ないうどんを作りたい」ということだろうと推測します。もちろん「塩抜き」でもうどんはできます。実際、山梨の「ほうとう」、名古屋の「味噌煮込みうどん」、そして讃岐の「打ち込みうどん」は、基本的にはすべて、小麦粉と真水だけで生地を練り込みます。よってうどんができるのは間違いのないところですが、どんなうどんができるのか知りたかったので、実際に打ってみました。
まず加水量ですが、通常の①塩入りうどんは、夏場なので食塩濃度13%の塩水47wt%(重量%)を使用しました。これは小麦粉1kgに対し、塩水470g(水409g+食塩61g)となります。一方、②塩抜きうどんは、加水率40wt%、つまり小麦粉1kgに対し真水400gという比率です。加えた水の量だけを比較すると、②塩抜きうどんの方が少ないにも拘らず、①塩入りうどんよりも、練りやすく感じたのは、塩にはグルテンを引き締め、生地を強靭にする働きがあるからです。また麺棒で延ばすときも②は、スイスイと何の造作もありませんでしたが、①はグルテンの粘弾力を感じながら、そして汗をかきながら延ばしました。
湯で時間は両者とも13分に設定。食味試験の結果は、どちらもまずまずで、②塩抜きうどんは、想定外というか、予想に反して「うどんらしく」仕上がっていたので、ちょっとびっくりしました。もちろん「塩抜き」なのでグルテンの粘弾性が乏しく、よってその食感は比喩が難しいのですが、オーバーに言うと「せんべい」、「かまぼこ」、「ういろう」みたいな感じでした。また生地が柔らかいために、①塩入りうどんよりも生地がだれやすく、よってうどんの形状が「きしめん」もしくは「ひらめん」ぽく仕上がりました。また今回は、冷蔵庫で一晩寝かせた生地を使用したせいか、ゆであがりの外観は、②塩抜きうどんの方が僅かに黒いというか、くすんでいました。つまり、「塩抜きの方が、熟成(酸化)が早く進む」ことが原因であると考えます。
今回、テイスティングをした3人の総評としては、②塩抜きうどんは想定以上に良かったが、二者択一となると①塩入りうどんの方が、やっぱりうどんらしい、という結論になりました。つまり噛んだ時に適度な「跳ね返り感」というか「弾力感」はやはり「塩」の効果によるもので、また麺自体にほのかな「塩味」のある方が、より美味しく感じます。尚、塩の効用については、「ゆで時間の短縮」、「食味向上」などありますが、興味ある方は、(#111)をご覧ください。一般に塩を加えた方が、ゆで時間が短縮されるといいますが、今回は極端にゆで時間が短くなったとは感じられませんでした。②塩抜きうどんの方が、少し硬いような気がしましたが、これは「弾力性」の有無の影響の方が大きいとも感じます。
最後に蛇足ながら、うどんに含まれる塩分について補足します。ゆでる前のうどんには、確かに相応の塩分が含まれていますが、十分なお湯でゆでれば、ほとんどの塩はゆで湯に溶出してしまうので、うどんそのものの塩分は気にする必要はありません。食塩摂取量を気にするのであれば、つゆを飲まないようにする方が、効果は絶大です。つまり真に注意すべきはつゆの方です。