#444 グルテンに着目した「さぬきの夢」の製麺適性
一般には「さぬきの夢」よりもオーストラリア産ASWの方が、製麺適性に優れています。つまり同じ小麦粉なのに、うどんを打つときは、ASWの方が簡単に打てるということです。そしてこの理由は、ASWに含まれているグルテンが、「さぬきの夢」のそれよりも多いからです。「うどんがつながる理由」は、ゆでる前と後では異なりますが、ゆでる前のうどんの「つなぎ力」はこのグルテンにあります。
小麦粉の中には、沢山のタンパク質が含まれていますが、特に重要なのがグリアジンとグルテニンです。小麦粉に水を加え、捏ねることにより、この2つがグルテンという小麦粉特有のタンパク質に変化します。グリアジンは鳥もちのようなネバネバした粘性を、そしてグルテニンはゴムのような弾性をもっています。よってグルテンはその両方の性質である粘弾性をもち、これがうどん生地の中で立体網目構造を形成することで、茹でる前のうどんはしっかりと繋がっていることができます。
簡単に言うとグルテンとは、うどんを繋げるため接着剤であるといっても良いと思います。よって接着剤(グルテン)が多い方がうどんは繋がりやすく、よってうどん作り(作業適性)が簡単になります。ただ「うどん作りが簡単」というのと「うどんが美味しい」というのは、別問題で、「さぬきの夢」は製麺適性ではASW に一歩譲りますが、食味においては、ASW にはない「もっちりとした食感」と「うどんそのものの深い味わい」があり、作業適性の不利を充分に補って余りあると思います。
グルテンは小麦粉に水を加え、捏ねることにより発生しますが、これは正に「うどん作り」の工程そのものです(グルテン採取の工程はこちらをご覧ください)。聞いた話ですが、昔は製粉会社の営業マンの7つ道具の中には、「うどん鉢」、「ヘラ」が入っていました。うどん屋さんから「うどんが切れるやないか?なんでや」という電話がかかってくると、直ちに駆けつけ、実際に大将の目の前でグルテンをとって見せたそうです。すると大将も、妙に納得してくれたと聞きました。
グルテンは①水回し②捏ね③熟成の3つの条件が揃わないとうまくできません。水回しが不十分だと、水が行き渡ってない部分ができ、そこにはグルテンが発生しません。よって水回しの工程は重要ですが、一旦生地の状態になってしまうと、水回しの出来不出来は判断できません(ここに水回しが軽視されがちな理由があるのかも知れません)。また熟成も重要です。特に温度が低いといくら時間をかけても熟成しません。冬期、寒い部屋に一晩寝かせておいても熟成は進まないので、グルテンも不十分なものとなります。
さてここで具体的に、ASW と「さぬきの夢」とのグルテン(接着剤)の量の違いを比較してみました。どちらも小麦粉10gですが、前者は2.5g、後者は2.1gとASW の方が20%程度多くなりました。つまりASWの方が、接着剤が多いので、それだけ作業適性が良いことになります。またここで採取されたグルテンは正確には湿麸(しっぷ)といって、水分を含んだ状態です。湿麸の2/3は水分で、実際の乾燥重量は1/3程度になります。つまりグルテンは、自分の2倍の重さの水を保持しています。
手打ちうどんの加水率が、精々50%程度(小麦粉1kgに対し塩水500g)であることを考慮すると、グルテンが持つ「水の保持力の大きさ」が実感できます。よってタンパク質の多い小麦粉ほど加水量を増やす必要があります。またこの事実は、水に対する緩衝力が大きいことを意味します。具体的には多少加水量がぶれても問題なく作業できるということです。これは逆に言うと「さぬきの夢」のようなグルテンの少ない小麦粉は、加水量をドンピシャで合わせる必要があるので、それだけ気を遣うことになります。