#446 天童・麺の旅
先日山形県天童市にいって参りました。天童といえば何と言っても「将棋の駒」が有名で、ここは全国一の将棋駒の産地です。天童の駅前通りの歩道には、タイルを利用した様々な詰将棋が描かれていて、初めて見た人は必ずびっくりします。そして街角にある巨大な看板「湯のまち天童、あなたの旅に、王手」の標語を見て、二度びっくり。更には毎年4月に桜の名所・舞鶴山(まいづるやま)の山頂広場で開催される人間将棋は、天童の風物詩であり、必ず全国ニュースでも紹介されます。蛇足ながら人間将棋とは、甲冑を身にまとった人間が将棋の駒となり、プロ棋士が対局するイベントです。正に天童は将棋の街です。
天童市は山形市の北隣りに位置する人口6万人余りの典型的な地方都市です。山形市に隣接しているので、何気ないつもりで「いっその事、山形市と一緒になったらどうですか?」と天童の知人に聞いてみたところ、「天童は独立して充分にやっていけるし、天童には天童人としてのプライドがあるんです」との答が返ってきました。つまり天童の人たちは、それだけ自分たちの街に誇りと自信を持っているんだと感じ入りました。活気を失いつつある地方都市が多い中、天童市をみて勇気づけられました。
ところで「将棋」が余りに有名であるため、見過ごされがちですが、天童(というか山形)にはもう一つの名物があります。知人曰く「蕎麦といえば信州が有名だけど、山形の蕎麦は信州に負けていないし、ラーメンもかなりレベルが高いんです」っと。最初聞いたときは、「ふ~ん」と聞き流していましたが、天童でそばの食べ歩きをするにつれ、そのレベルの高さを実感するようになりました。特にそばは、更科系よりも藪蕎麦というか田舎そばみたいな太い蕎麦が迫力満点で、これがやみつきになります。
最初は「ちょっと硬いかな」と思いながら噛み続けていると、徐々に蕎麦の甘みが口の中に拡がり、食べ終わった後はなんとも言えない充実感に浸れます。店内の標語に「初め鶴々 後は亀々」とありますが、「なるほど旨いこと言いよるなあ」と実感。知人曰く、「昔は、それこそ割り箸みたいな太い蕎麦も出していたんですけど、流石に硬くて、顎がだるくなるのでメニューからは消えてなくなりました」っと。言うことは理解できますが、その「幻の割り箸蕎麦」を口にすることができなかったのは、返す返すも残念でした。
うどんは小麦粉だけで作るので、小麦粉に含まれる粘弾性のあるグルテンがゴムの役目をして、うどんを噛んだ時に、その跳ね返り感を感じます。一方蕎麦には、グルテンがないので、跳ね返りがないまま、噛み切れてしまうので、「噛む」という表現がぴったりです。またうどんは、湯煎して温かいつゆをかけるメニューが多いのに対し、そばはざるそばや盛りそばに人気があるためか、「うどんは暖かく、そばは冷たい」イメージがあり対照的です。
蕎麦に加えて、最近山形で人気上昇中のメニューが、そば屋で食べることのできるラーメン「鳥中華」。トッピングは、鶏肉、天かす、刻みノリと蕎麦と同じ、またスープもかつおの効いた醤油味。いってみれば蕎麦の麺の代わりにラーメンが入っているような和風ラーメンで、あっさりと仕上がっています(詳細はこちらの鳥中華の動画をどうぞ)。蕎麦はもちろん、ラーメンも旨い。そして蕎麦とラーメンが合体した鳥中華もばっちり。山形は正にみちのくの麺処と名乗るに相応しい場所だと感じます。皆さんも天童にこられたら、温泉にゆっくりと浸かり、その後はそば屋さんやラーメン店をハシゴして、山形の麺を存分に堪能してください。