#447 手打ちうどんにおける小麦粉と水との係わり・・・①
【小麦という稀有な穀物】
小麦粉に水を加えて捏ねていくと、徐々に塊ができてきます。そしてその塊は粘土のように自由な形に成型することができます。一方、小麦以外の穀物では、こういう具合にはいきません。例えば身近なところで言うと、米を粉砕し米粉にして、それに水を加えてみればよくわかります。それは一見、うまく混ざったように見えても、少しでも水が多ければ、すぐに「どろどろ」になってしまうし、またどんなに慎重に水加減を調整して、塊になったように見えても、成型しようとすると、すぐにひび割れてしまいます。
つまり米粉を練った生地には、小麦粉生地のようなしなやかさや粘りがなく、如何にも脆い存在です。そしてこれは別に米粉に限ったことではなく、トウモロコシ、ジャガイモ、大麦といった小麦粉以外の穀物は、全て同じ傾向を示し、言ってみれば小麦だけが特別な存在であることがわかります。
この小麦粉生地だけが自由に成型できる理由は、小麦粉が持っているグルテンという特別なタンパク質のおかげです。もう少し正確に言うと、小麦粉にはグリアジンとグルテニンという2つのタンパク質が含まれていて、これが水と一緒になってグルテンという、粘性と弾性を兼ね備えたタンパク質になります。そしてこのグルテンの働きによって、私たちは小麦粉生地を自由に成型することができます。
世の中には、星の数ほどの穀物がありますが、このグルテンをもつ穀物は小麦だけです。小麦はその食味の良さもさることながら、この加工適性の利便性により、私たちの食生活の主役になったのだと思います。遊び心に富んだ動物パンを焼くには、生地の状態で様々な形に成型する必要がありますが、これもグルテンのおかげです。もしグルテンがなければ、たこ焼きやたい焼きのような鋳型に流し込んで焼くしか他に方法はありません。以下このグルテンをキーワードにして、小麦粉と水との係わりをまとめてみたので、ご参考になれば幸いです(以前の新着情報と重複する部分もありますが、どうかご了承ください)。
【2】グルテン
小麦粉には80種類以上のタンパク質が含まれていますが、その中で代表的なものが可溶性タンパク質であるアルブミン(15%)とグロブリン(3%)、そして不溶性タンパク質であるグリアジン(33%)とグルテニン(16%)です(#112)。中でもとりわけ重要なのがゴムのような弾性をもつグルテニンと鳥もちのような粘性を持つグリアジンとなります。グルテニンとグリアジンから作られるグルテンはこの両方の性質を兼ね備えた「粘弾性」を持ち、このグルテンが小麦粉生地の中で、立体網目構造を形成することで、「つなぎ力」を生じるようになります。グルテンは、「建物の中の鉄筋」という表現もされますが、小麦粉生地中で「接着剤の役割」を担うといっても良いと思います。
小麦粉には、(右図)のように70%以上の炭水化物、14%程度の水分、8~12%のタンパク質が含まれています。そしてタンパク質を多く含んでいるものを強力粉、少ないものを薄力粉、そして中庸のものが中力粉と分類され、うどんには中力粉が使用されます。但しこの分類方法は、単にタンパク質含量に注目して分類したに過ぎず、タンパク質が同程度であるからといって、同じうどんができる訳ではありません。そもそも小麦粉に一番多く含まれている成分は、炭水化物(でんぷん質)なので、これがうどんの食味や食感に大きく影響することは間違いありません。
ここでグルテンの採取方法について簡単にまとめておきます(詳細はこちらをご覧ください)。ボウルに少量の小麦粉と水を加え、へらで捏ね続けると生地ができます。次にこれをぬるま湯の中で暫く放置した後、もみほぐしてやると、でんぷん質はぬるま湯の中に溶けて流れ出てしまい、最終的にグルテン(wet-gluten)だけが残り、これを湿麩(しっぷ)とよんでいます(右画像)。湿麩の約2/3は水で、残りの1/3がグルテン本体です。つまり小麦粉のグルテンは、ざっと自分の2倍の水を保持できることがわかります。
一方、小麦粉自体の保水力は精々100%、つまり1kg小麦粉は1kg水しか保持できないと言われています。このことは小麦粉と水を、同量練り合わせてみると、「どろどろ」になってしまうことからも容易に確認できます。ところが、もし小麦粉がすべてタンパク質でできているとしたら、1kgの小麦粉は2kg水とくっついて3kgのグルテン(湿麩)ができることになります。よってこう考えると、タンパク質の保水力がいかに大きく、その多少がいかに小麦粉の吸水性に影響を与えるかが理解できると思います。(・・・つづく)