#448 手打ちうどんにおける小麦粉と水との係わり・・・②
【3】グルテンと小麦粉の吸水率との関係
現在うどん用小麦粉に含まれる、平均的なタンパク質の量は9%前後ですが、もしこれが1%増えたとすると、小麦粉1kgでは10gのタンパク質が増えたことになり、先ほどの湿麩の例で考えると、20gの水を余分に保持できることがわかります。手打ちうどんの一般的な加水率は50%、つまり小麦粉1kgに対し塩水500gが標準ですが、タンパク質の多少により加水量を加減する必要があることは言うまでもないと思います。
またこの事実から、グルテンが多い小麦粉ほど手打ちうどんにおける水加減がやさしいことがわかります。つまりグルテンの保水力は、でんぷんに比べてずっと大きいので、グルテンが多い小麦粉は、加水量が多少ぶれても、差し支えありません。しかしグルテンが少ない場合、加水量が少しでも多過ぎると、生地が柔らかくなってしまい、加工適性が落ちるため、加水量は正確に量る必要があります。言い換えるとグルテンが多い小麦粉ほど、加水量に対する許容範囲が大きく、水に対する緩衝力が大きいと言えます。適切な喩えかどうかはともかく、大人と子供がお腹一杯になったとき、子供はそれ以上はほとんど駄目ですが、胃袋の大きい大人であれば、無理すればうどんの一杯位なら食べることができるようなものです。
ここで小麦のタンパク質の性質を簡単にまとめておきます:
① タンパク質が多いほど、グルテンが多く形成されるので、生地はまとまりやすく、また加工しやすくなります。
② タンパク質が多いほど、小麦粉の吸水力が大きくなる。
③ タンパク質が多いほど、水に対する緩衝力が大きくなる。よって加水量が多少ぶれても問題ない。
【4】グルテンと手打ちうどんとの関係
グルテンは、ゆでる前のうどんの「つなぎ力」の源であり、このグルテンのおかげで、うどんは切れずに繋がっていることができます。昔は、うどん屋の大将から「うどんが切れるけど、どなんなっとんな?」というクレームがあると、担当者がお店に出向き、大将の前でグルテンを採取してみせると、納得してくれたという話も耳にします。つまり小麦粉には問題がなくても、うどんの作業手順に問題があると、充分なグルテンが生成されず、結果うどんが切れたり、脆くなったりすることがあります。言い換えると、しっかりとしたコシのあるうどんを打つということは、グルテンを100%引きだす作業といっても差し支えありません。そこでこれから、グルテン採取方法とうどん打ちとを比較をしながら、そのポイントを少し説明してみたいと思います。
グルテン採取の方法については、【2】において説明しましたが、これを図式化すると次のようになります(下画像)。つまり小麦粉に含まれるグリアジンとグルテニンに「水を加える」ことが①水回しであり、「捏ねる」ことが②足踏み、「適温で放置」させることが③生地の熟成となります。そしてこの3条件のどれが欠けても、しっかりとしたグルテン(④うどんのコシ)はつくることはできません。
特に①水回しは重要ですが、実際の作業においては軽視されていることがあります。これは水回しが不完全であっても、生地の状態になってしまえば、その良否が判断できないことが一つの理由でないかと推測します。
また「水と小麦粉とは相性が良い」という誤った先入観も大きな理由かも知れません。次の画像をご覧ください。左はグラスに小麦粉を入れ、上から水を静かに注いだ直後の状態で、右は24時間後の状態です。説明するまでもなく、状態にはほとんど変化がないのがお分かりいただけると思います。つまり小麦粉は水とは、本来混ざりにくい「疎水性」の物質であり、意識して混ぜ合わせないと、うまく均一にはなりません。よって同じ加水率であっても、水回しが一様でないと、水が行き渡っていない部分は、いくら捏ねてもグルテンが発生しないことになり、全体としてグルテンが不十分となります。
完全な水回しとは、水回しが終了した時点で、全体が米粒から小豆大の「そぼろ状」になっていることですが、更に言えば、そぼろの状態で暫く放置させる「そぼろ熟成」を行うことで水回しは完璧になります。この理由は、そぼろの状態においても、その中ではまだ水分の不均一な部分があり、放置させることで「毛細管現象」によって水分が隅々まで行き渡るからです。しかしそれが完了する前に固めてしまうと、水分は移動しづらくなります。そしてこの「そぼろ熟成」は特に冬期において有効なので、うどんの艶やコシが不十分だと感じたら一度お試しください。(・・・つづく)