#463 塩は百肴の将

f463さぬきうどん研究会は、「さぬきうどんの伝統を継承し、発展をはかるために文化的、技術的活動を行う」ことを目的に活動し、その一環として例会には毎回うどん関連のゲストスピーカーをお招きしています(#413,#380)。そして先日は㈱日本海水讃岐工場の立河健一氏を講師にお迎えし、「塩の話」を興味深く拝聴いたしました。その昔、讃岐では製塩業が盛んでしたが、かつて海岸線を埋め尽くしていた塩田も、今は工業地帯や商業地域へと変貌し、その面影は全くありません。

タイトルの「塩は百肴の将(しおはひゃっこうのしょう)」、正確には「塩は百肴の将、酒は百薬の長」は古代中国の書物「食貨志」からの引用です(私は当然このフレーズを知らず、不明を恥じます(-_-;))。肴(さかな)とは、酒を飲む際に添える食品、つまりご馳走のことですが、塩はそのご馳走の主役ということです。同時に「最もおいしいのは塩、最も不味いのも塩」とも言われ、料理の味を決めるのも塩ということになります。ということで、現在の塩事情をざっとご説明いたします。

現在、全世界の塩の生産量は年間2.54億tで、内訳は①岩塩1億6,000万t ②海水(天日製塩法)9,000万t ③その他(イオン交換膜法他)400万tとなっています(下図㈱日本海水ご提供の資料参照)。①岩塩というのは、大昔に海水が陸上に閉じ込められ、それが蒸発し結晶化したもので、製塩といってもただそれを重機で掘るだけなので、コストは一番安く、よって生産量が多いのは当然です。②海水(天日塩)は、乾燥した気候を利用し、広大な土地における天日蒸発による製塩方法で、これも手間がかかりません。いわば手間がかからない巨大な塩田みたいなもので、これもコストはほとんどかかりません。

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つまり①と②を合わせた製塩方法で、全世界の98%以上を生産し、これが現在の製塩方法の業界標準ということになります。しかしこれらはただ重機で掘ったり、巨大な浅瀬に閉じ込めた塩水をただ自然乾燥させたりしているだけなので、製塩方法といえるかどうかは、個人的には甚だ疑問ではあります。それはさておき残りの2%弱が、イオン交換膜法などを利用した製塩方法で、現在の日本ではこの方法が主流です。

日本における2011年の塩の生産量は97.8万tであるのに対し、需要は824.5万t(よって輸入量は726.8万t)となり、自給率は12%となっています(世界各国の塩の需給)。余談ですが現在国産小麦の生産量が90万t、需要が600万t(輸入が500万t程度)なので、塩と小麦は、需要や自給率の点で良く似ています。大きく異なる点は、小麦は食用であるのに対し、塩のほとんどは工業用に使用される点です。現在一人当たりの食塩の推奨摂取量は10g/日と言われているので、食用としては1億2,000万人×10g×365日=43.8万tあれば充分ということになります。

ところで製塩法というのは、基本的には海水を蒸発させてつくると単純なものですが、それは大きく①採かん工程と②煎ごう工程に分かれます。「かん水」とは「濃い塩水」のことですが、①採かん工程は、このかん水を作る工程のこと、そして②煎ごう工程は、かん水を煮詰めて結晶化させる工程を指します。かん水をつくる作業は、昔は塩田で行っていましたが、現在はイオン交換膜法を使用します。これはマイナスイオンを通す膜とプラスイオンを通す膜とを利用して、かん水を作る技術です。

イオン交換膜という言葉から化学を連想し、よって「自然でない」と考える方もいるようですが、実はイオン交換膜法による製塩は、現在最も安全な塩であるという事実はもっとPRされて良いと考えます。例えばもし海水に重金属やPCBのような有害高分子化合物が混入していたとしても、それはイオン交換膜膜でシャッタアウトされて塩に移行することはないからです。逆に輸入された岩塩からは、ヒ素、鉛、クロム、銅といった有害物質が検出された事例もあるようです。

最後になりましたが、うどんにおける塩加減には、「土三寒六常五杯」という口伝があります。塩にはグルテンを強靭にする性質があるので、生地が柔らかくなる夏期には多く、また硬くなり易い冬期には少なくしなさいということです。ご興味ある方は、塩に関連した下記新着情報もご参照ください。

#439 塩入りうどんvs.塩抜きうどん
#321 小麦粉のタイプ
#111 うどんに塩を入れる理由
#64 手打うどんの加水率