#481 異物混入
異物混入問題は、食品業界にとっては永遠の課題かもしれません。どんな最新鋭の工場であっても、モノが動く限り、混入の可能性は残ります。特に人手を介在する場合は、可能性は更に高くなります。そして異物混入でよく問題になるのが、毛髪です。最近の食品工場はどこも作業室に入室前は、ローラーがけを励行し、帽子やマスクは必須ですが、それでもゼロにはなりません。
年齢や体質にもよりますが、一説によると人は平均84本/日脱毛するそうです。すると8時間の勤務時間中には28本抜けることになり、10人で作業していると合計280本が抜けることになります。よっていくら気をつけても気をつけ過ぎることはありません。
さてうどんについて毛髪混入問題を考えてみたいと思います。今更説明するまでもありませんが、うどんは小麦粉と塩水を混ぜ合わせ、捏ねて熟成した後、延ばして切り、そしてゆでます。よって混入のタイミングとしても実に様々な場面が想定できます。小麦粉は工場出荷前に、二度篩いにかけるので、異物が混入する可能性はほとんどありません。我田引水に聞こえますが、工場出荷前に異物が混入する可能性は、出荷後のそれと比べると遥かに小さいといえます。
次の画像をご覧ください。ゆでたうどんの内部にまで毛髪が噛みこんでいます。皆さんはこの画像をご覧になって、毛髪はどの段階で混入したと想像するでしょうか。具体的にいうと①生地を捏ねる段階かそれとも②うどんをゆでている段階のどちらでしょうか?この二者択一で聞くと大抵の方は、①の生地の中に練り込まれていたと判断されるようです。しかし結論から言うと正解は②です。実際、この画像は、乾麺と毛髪1本を別々に鍋に投入し、一緒にゆでた結果です。ですから皆さんが万が一、このようなこのような状況に遭遇したら、毛髪は生地に練りこまれたものではないとお考えください。以下順番に説明いたします。
【生地内に練り込まれたものではないという理由】
乾麺の製造工程では、連続的に生地を圧延しながら、適正な厚さになった最終段階で「切刃(きりは)」と呼ばれる押出機を通過させ、ここでまとめて適正な幅にカットします(画像参照)。もし毛髪が生地に練り込まれていたのであれば、この切刃を通過するときに、毛髪も麺の幅にカットされてしまい、「長い1本の状態のまま」で、次の工程に移行することは困難です。これは手打うどんの場合も同様です。よって、こういう状態でゆであがった場合は、少なくともうどん生地の中には入ってなかったと考えるのが自然です。
【毛髪がうどんに食い込む理由】
うどんをゆでると、徐々にうどん内部のでんぷんが水分を吸収し、太くそして柔らかくなります(でんぷんの糊化現象)。ゆであがりの状態で、手打ちうどんは元の2倍、乾麺は3倍の重さになりますが、その増えた分だけ、水分がうどんの中に吸収されたことになります。
一方、毛髪はゆでても切れることなく形も変わりません。最初はうどんと毛髪は、お湯の中を対流していますが、その内にうどんの方は糊化が進み、柔らかくなるにつれ、細い毛髪と柔らかいうどんが、徐々に絡み合うようになります。うどんが鍋底に、またうどん同士がくっつかないよう、箸でうどんをかき混ぜるのは自然な行動ですが、そのとき長い毛髪だと、箸に絡むこともあるでしょう。するとそのタイミングで毛髪がうどんに引っかかることもあります。そして「細くて硬い毛髪」が「柔らかいうどん」の中に食い込み易くなることが想像できます。
【結論】
以上2つの理由で、毛髪混入のタイミングは生地練り込み時点ではなく、うどんをゆでている時点であると考えるのが自然です。毛髪がうどん内部に絡んでいるのを見ると、最初は誰もが生地内での混入だと考えます。弊社でも、最初はこういう状態のうどんを見ると「生地内の異物混入」であると考えていました。しかしよくよく考えてみると、そうではないことがわかりました。よってこういう状態が起こり得るのは、①袋の中にうどんと一緒に毛髪が入っていた、もしくは②開封後に毛髪が混入したかの何れかということになると思います。