#483 小麦と小麦粉の栄養成分
小麦の部位は、大別すると胚乳(83%)、表皮(15%)、胚芽(2%)の3つに分類されます(画像参照)。うどんやパンなどの主原料である小麦粉は、この小麦の胚乳部分を採りだしたものです。胚乳部分は83%程度ですが、脆い胚乳は表皮にびっしりと付着しているため、完全に取り切るのは難しく、小麦粉歩留まりはそれより低くなります。また同じ胚乳部分でも、周辺部分に比べ中心部分の方が、うどんにしたときの色調や喉越しなどの食感に優れるので、うどん用小麦粉の歩留まりは、50~62%の小麦粉が使用されます。
表皮部分(小麦ふすま)の主体は食物繊維ですが、その食感と食味が牛にとっては堪らないらしく、ふすまは、家畜用飼料として欠かせない存在です。ただ牛にとってはご馳走でも、私たち人間にとっては、噛んでもただごわごわするばかりで食味は良くなく、また栄養もないため、従来は食品としての利用価値はありませんでした。しかし近年この食物繊維が、腸内細菌の格好のエサであることが分かり、食物繊維の摂取が、成人病予防、免疫力の向上、更にはセロトニンやドーパミンといった「幸せ物質」を増産し、より高い幸福感が得られるといったことがわかってきました(#480)。
胚芽は、全体の僅か2%にしか過ぎませんが、ここには発芽に必要となる栄養素がぎっしり詰まっています。そのため「小麦胚芽」は従来から健康食品として販売されています。ただ難点は、胚芽は含まれている絶対量が少ないのに加え、軟らかいために採取が難しく、多く採れないことです。例えば1tの小麦を製粉すれば、20kgの胚芽が採れる計算ですが、実際には精々1~2キロしか採れません。つまり胚芽のほとんどは、小麦ふすまに紛れて家畜の口に入ることになります。
胚芽の歩留まりが低い理由の一つは、小麦製粉の目的が胚芽ではなく小麦粉(胚乳)の採取にあるからです。つまり現在の製粉工程は、胚乳部分と表皮部分を分離することが主目的であって、胚芽の採取はその副産物のような位置づけなので、仕方ありません。実際の製粉工程では、胚芽はセモリナ(胚乳の小さな塊)に混じってロール機に入ると、セモリナは粉砕されて小さくなるのに対し、胚芽は軟らかいために薄く圧延されるので、ふるい分けることが可能になります。
さて前置きが長くなりましたが、ここで小麦3部位の栄養成分を比較します。下画像の数値は、五訂食品成分表からです(小麦ふすまのみ、USDAウェブサイトから引用)。小麦粉は、種類を問わず似たような栄養成分で炭水化物が主体です。蛇足ながら「炭水化物 = 糖質 + 食物繊維」という関係があります。小麦胚芽は、タンパク質が全体の1/3を占め、食物繊維も14.3%と多めです。小麦ふすまは、なんといっても食物繊維の豊富さが特長で、そのほぼ半分が食物繊維です。よって小麦をそのまま挽き込んだ「全粒粉」も、当然食物繊維が多く11.2%となっています。
厚生労働省は、一日当りの食物繊維摂取量20g以上を推奨しているので、単純に考えると全粒粉を毎日200g摂取すると達成できます。私たちの主食である白米は、100g当り僅か0.5gの食物繊維しか含んでないので(玄米でも3g)、食物繊維は副食から摂取する必要があります。また押麦には9.6gの食物繊維が含まれていますが、大麦はそのまま100%調理することは余りありません。大麦の代表的なメニューである「麦ごはん」は、白米に大麦を20~30%混ぜ合わせますが、この場合食物繊維の摂取量は100g当り3g程度に低下し、これは小麦粉と同程度です。
我田引水ではありますが、食物繊維摂取が目的ならばやはり小麦ふすまが最も効率的です。実際のところ食物繊維を含む食材は数多くありますが、小麦ふすまが最も効率的かつ健康的であるという認識が定着しつつあります(#245)。しかし改めて言うまでもなく、小麦は大昔から全人類的において主食になっている事実からも、その安全性と有効性は既に証明されている、と考えても問題はないと思いますが、いかがでしょうか?