#487 食育
「食育」という言葉は北川博敏氏(香川短期大学名誉教授)の著書「子どもを生活習慣病にしない食卓」で知りました。「教育」や「体育」といった言葉があるので、食育があっても何ら不自然ではありませんが、普段あまり聞くことはありません。「食育」という言葉を最初に使用したのは、陸軍の薬剤監であった石塚左玄で、「体育・知育・才育は即ち食育なり」と唱え、食育・食養の普及に努めたそうです。詳しく言うと彼は1896年(明治29年)に「化學的食養長寿論」を著し、その中で「学童を有する都会魚塩地の居住民は、殊に家訓を厳にして、体育・智育・才育は即ち食育なりと観念せしや」、つまり「子供にとって一番大事な教育は健康と命に関わる食育で、食育はあらゆる教育の根幹であり、食育は親が行う家庭教育である」と説いています。
「食育」の重要性に鑑み、2005年の小泉純一郎政権時には「食育基本法」が制定され、その3年後の2008年、「食育」という言葉は、広辞苑にも登場します。このように説明すると、「食育」とは難しそうに聞こえますが、実際は「栄養バランスのとれた食事を心がけましょう!」の一言に尽きると思います。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」といいますが、「健全なる身体は、バランスのとれた食事」から生まれます。しかし「飽食の時代」と言われる現代において、この「バランスのとれた食事」を実践するのは、それほど簡単なことではありません。
小麦粉を例にとります。製粉技術が未熟であった時代は、石臼で小麦を挽いていたため、小麦の表皮部分が小麦粉にかなりの割合で含まれていました。結果、その小麦粉で焼いたパンは「ごわごわ」とした食感で、また表皮部分に付着している不純物のせいで「食味」もそれほど良いものではありませんでした。一方、現在は段階式製粉方法により、胚乳部分だけを上手く取り分けることができるようになった結果、真っ白な「ふわふわ」のパンが焼けるようになりました。これは一見、良さそうに見えますが、食物繊維が潤沢に含まれている表皮部分が削ぎ落とされた結果、食物繊維が不足するようになりました。
またバターや砂糖がたっぷり入ったパンやケーキは、食味も口当たりも良いのでどんどん口に入ります。若い頃は新陳代謝が活発なので、少しくらい食べ過ぎても平気ですが、加齢と共に代謝機能が低下し、太りやすくなります。1ヶ月で100gの体重増加は、ほぼ誤差の範囲ですが、そのまま続けば1年では1.2kg、そして10年では12kgの増加となります。欲しいものが目の前にあるのに、それを制限することは、辛いことです。しかし一方で食材をうまく組み合わせ、それに慣れることで、食事を楽しみながらバランスよい食生活も送ることも可能です。そしてこれは小さい頃から始めるのが最も効果的で、また実践しやすく、これが石塚左玄のいうところの「食育」だと考えます。
前日、岩手県の安原美通(みつゆき)様より、「是非自分のレシピのパンを紹介してほしい」とのお便りが届きました。安原様は東日本大震災後に二度の大腸癌手術を経験し、その後腸内環境改善のため、ブラウワーをご愛用されています。お手紙に記載のレシピには大豆,押し麦,ゴマ,レンコン,玄米粉、オリゴ糖など身体に良さそうな食材が並んでいました(バター・塩は不使用)。そのせいか、生体検査も良好で医師からお褒めの言葉をいただいた、との内容でした。皆様も健康志向のオリジナルのパンを作ってみるのも一案かと思います。
ただ安原様のレシピは、バター・塩は不使用に加え、健康的な食材がふんだんに含まれているために、人によっては少し物足りなく感じるかもしれません。食事は、美味しく楽しくすることが重要です。私たちも自分自身にあったオーダーメイドの「食育」が必要かと思います。
安原美通氏のHBによる特別レシピ
●全粒粉150g、ブラウワー150g、大豆少々(予め煮ておく)、押麦・ゴマ・玄米粉(それぞれスプーン3杯)、レンコ(スプーン2杯)
●オリゴ糖少々(塩、バターは不使用)