#488 製粉工程図
小麦粉は、小麦に含まれる胚乳部分のことで、製粉とは表皮部分ができるだけ混入しないようにこの胚乳部分をとりだすことです。つまり小麦製粉とは小麦の中身だけを取り出すだけの、至って単純明快な作業です。しかしです。製粉工場を見学に来られた方は異口同音に、「なんでこんなに沢山の機械が必要なのか理解できない」、「どうなっているのかさっぱりわけがわからん」、といった感想を持たれるようです。工程が複雑になる理由は、小麦という穀物の独特の構造によるものです。
小麦粉と並んで私たちの主食であるコメの場合は簡単です。玄米の表面を覆っている「米ぬか」を取り除くと白米になります。そして白米は硬く、米ぬかは軟らかいので、玄米の表面を軽く研磨するだけで、白米になります。地方には多くのコイン精米機がありますが、これは精米の原理が簡単であるが故、自動化が簡単なためです。一方、小麦は中の胚乳部分が脆いのに対し表面の皮の部分(小麦ふすま)が強靭であるために、外から削るとどうしても、表皮が混入してしまい、純度の高い小麦粉が得られません。そのために「段階式製粉方法」といった複雑な製造工程が必要になります。
製粉方法については、「小麦粉のできるまで」で既に説明していますが、今回改めて製粉工程図(画像をクリックすると大画面)を作成しましたので、これと併せてご覧いただくともう少し理解し易いかと思います。それではこの工程図に沿って簡単に説明します。サイロに入っている小麦は、トラックで搬入されたあと、①グレーンセパレータで予備精選(特に大きな石ころ、麦わらなどを除去)を行った後、②粗麦タンクに一旦保管されます。次に③コンビネータ、④スカラーマシン&アスピレータなどを使用して精選します。
スカラー(scourer)の動詞はscourで「ごしごし磨く」という意味があり、よってスカラーは小麦表面を磨く機械です。またアスピレータ(aspirator)の動詞はaspirateで、「吸引する」という意味で、アスピレータは吸引器(掃除機みたいなもの)となります。考え方としては、小麦表面を磨くと必ず、表面の脆い付着物が分離されるので、それを吸引して取り除きます。つまりスカラーとアスピレータは、常にセットで利用されます。
精選が完了すると、⑤加水コンベアで小麦に加水します(調質工程)。目的は、小麦の表面を強靭にして、製粉時に表皮が細かくなりにくいようにすること、そして胚乳からの皮離れを良くすることです。調質が終了すると⑥テンパリングタンクで一昼夜保存します。時間をかけることで、水分が小麦中心部分まで浸透し、調質効果が向上します。調質が完了した小麦は、再度⑦スカラー・アスピレーションを通過します。理由は、小麦は移動する度に、お互いに擦れあって表面の脆い部分がとれてしまうため、表面を再度きれいにする必要があるからです。そして⑧3次加水コンベアで、表面部分を僅かに湿らせることで、小麦粉への表皮混入防止効果を更に高めます。
そしていよいよ製粉工程です。製粉の肝は、⑨ロール製粉機⑩スケアシフター⑪ブランフィナッシャ⑫ピュリファイア⑬その他のロール機で、ストックはこの中を複雑に行き来し、ここで段階式製粉方法が実践されます。結果、一粒の小麦は、50種類程度の上がり粉に取り分けられ、これをグループ分けすることで、1等粉、2等粉といったグレードの異なる小麦粉が取り分けられます。
完成した小麦粉は⑭製品タンクで一旦保管され、出荷前には⑯ジュニアシフターという篩いを通過します。万が一異物が混入していてもここでトラップされる仕組みになっています。以上簡単ですが、再度製粉工程を説明いたしました。「小麦粉のできるまで」と併せてご覧いただければ、幸甚です。