#491 「食物繊維の科学(辻 啓介・森 文平編)」
「食物繊維」というタイトルに惹かれ思わず読んでみました。といっても専門書の部類に入るため、専門用語や細かい数字が頻出し、充分に理解できたとは言えませんが、それでも食物繊維に対する理解は確実に深まったと実感します。これまで食物繊維に対するイメージは、「消化されない食物のカス」であり、また「水溶性と不溶性の2種類」しかないという漠然としたものでしたが、実際はそうではありません。以下、理解できた部分を、簡単にまとめてみました。
ビタミンにはビタミンA、B、C・・・など沢山の種類があり、それぞれが異なる働きがあるのと同様に、食物繊維にも様々な種類があり、その食物繊維ごとに特徴ある機能があるという事実は新鮮でした。例えば不溶性食物繊維は、便秘、大腸癌、胃潰瘍などの消化器疾患との関連性が強く、水溶性食物繊維は、糖尿病、高脂血症、高血圧、コレステロール胆石などとの強い関連性が、示されています。
現在では食物繊維は、「人の消化酵素で消化されない食物成分」として定義され、私たちの食生活に必須アイテムであり、それが糖質、脂質、タンパク質、ミネラル、ビタミンの「5大栄養素」に次ぐ「第6の栄養素」といわれる所以です。以下は食物繊維の分類と、その含有食品の表ですが、このように一口に食物繊維といっても多くの種類があり、それぞれ独自の機能があります。
私たちが経口摂取した食物は、胃の中で強い酸性の胃液によってドロドロに溶かされ、その後十二指腸に移動します。そして消化酵素によって分解された栄養素は、小腸で吸収されますが、そこで消化されない食物繊維は大腸内の腸内微生物によって発酵され、「短鎖脂肪酸」を生成します。短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が作る酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸で、これらは体内に吸収後、その種類によって再利用されます。つまり食物繊維は直接的には消化吸収されないけれど、腸内細菌の力を借りて2次的に利用されることになります。
次のグラフは日本における食物繊維摂取量の年次変化です。私たちはかつては27g/日も摂取していましたが、1985年には17.0gに減少し、現在ではなんと15g/日を下回っています。この主たる原因は、穀類(米や大麦)やいも類(さつまいも)の摂取量の減少であることがグラフからわかります。そして結腸癌粗死亡率と(脂肪/食物繊維摂取量)とは強い相関関係があります。
言い換えると脂肪摂取量が増え、食物繊維摂取量げ減少するほど、結腸癌による死亡率が高くなっていることがわかります。もちろん相関関係が高いというだけでは、因果関係の証明としては不十分で、更なる検証が必要ですが、「ハワイに移住した日本人は胃癌が減少し、大腸癌が増加するという事実」は説得力があります。
現在においては製粉技術が発達し、誰もが白くてふわふわする美味しいパンを食べることができます。しかしその代償としてパンから食物繊維、ビタミン、ミネラルなどが削ぎ落とされる結果となりました。しかも口当たりが良く、食べやすい食品は、食べ過ぎ、そしてカロリー摂取過多を助長する結果となりました。一方、食物繊維の多い食品は、よく噛む必要があるため、唾液の分泌を促進し、満腹感をもたらす効果があります。飽食の時代である現代では、肥満防止や生活習慣病予防にも効果があることが示されています。
「精製食物繊維はとり過ぎの可能性があるので、他の栄養素ともども広範囲の種類の食品から得た方が望ましい」との筆者の意見には強い共感を覚えます。つまり必要な栄養素は普段の食事から摂取することが重要で、偏食をせずに、食べ過ぎず、脂肪をとり過ぎず、そして食物繊維をたっぷりと摂取する食生活が重要です。