#501 小麦粉について2つの質問・・・「小麦粉の種類」と「旨味成分」
先日、木村さんから小麦粉についてのご質問がありました。皆様のご参考になるかもしれませんので、ここにアップいたします。
【Q1外国と日本の小麦粉の特徴の違いについて教えてください】
一言で言うと、日本では使用される小麦粉の種類が多いのに対し、ヨーロッバのそれは数えるほどです。小麦博士として著名な長尾精一先生の著書「小麦粉利用ハンドブック」によると、ドイツ・フランスでは、どちらもパン用途が主体であるため、「ほとんどが冬小麦で、中間質ないし準硬質粒である」そうです。つまり冬に種を撒き、初夏に刈り取ります。またグルテンに関していえば、中力粉もしくはやや強力粉ということになります。
日本の小麦粉は種類が多く、ヨーロッバのそれが少ない理由は、小麦粉製品の種類の違いによるものです。ヨーロッバでの小麦需要は、ほとんどがパン用途であるため、その種類は限定的です。一方、日本では年間600万トンの小麦が製粉されていますが、その内訳は輸入小麦が90%、国産小麦が10%です(例えば2013年の使用量は下記をご覧ください、農水省提供)。そして輸入小麦の種類は5種類ですが、これらを組み合わせることで、ありとあらゆる種類の小麦粉が製粉されます(小麦のはなしもご参照ください)。
食パンは、カナダの1CW、アメリカのDNS が使用されます。またギョウザの皮には、アメリカのDNS やHRW、うどんなどの麺用にはオーストラリアのASW、そしてカステラやケーキにはアメリカのWWが利用されます(下画像参照、農水省提供)。もちろんどんな小麦粉からも、あらゆる小麦粉製品を作ることが可能ですが、異なる種類の小麦を効果的に使い分けることで、一層すばらしい小麦粉製品に仕上がるからです。
例えば食パンは、ふっくらと膨れることが第一条件で、膨れないパンは硬いので余り好まれません。またうどんは、コシがありもっちりとした麺質が好まれ、「ふにゃふにゃ」や「硬い」だけの麺は敬遠されます。そしてカステラやケーキは、ふんわりソフトに仕上がることが条件ですが、これらの違いは原料小麦を使い分けることで、実現されます。
また国産小麦は、ほとんどがうどんなどの麺用に使用されますが、これは国産小麦の多くが中力粉の原料である中間質小麦(タンパク質が中程度の小麦)であることによります。日本にもグルテン含有量の多い硬質小麦もありますが、圧倒的に中間質小麦が多く、これは日本の気候が原因しているようです。日本のようなモンスーン気候は、コメには適していますが、小麦には不適で、小麦は乾燥して少し寒い気候があっているようです。
【Q2小麦粉の旨みというのは、どこからくるのでしょうか】
食品の評価には、ご承知のように、大別して①食味と②食感があります。例えば、新着情報#499ご覧ください。小麦によって「旨味」成分は異なり、うどん用小麦についていえば、現在うどん用に最適と言われているオーストラリアのASWよりも「さぬきの夢」の方が、旨味を強く感じます。ただ作業適性においてはASWが優れているため、うどん店によっても両者の評価は異なります。
また「食味」の感じ方については個人差があり、強く感じる方とそうでない方がいて、それによって好みも異なるようです。個人的には「食感」だけで「旨味」の薄いうどんは、食べ続けると徐々に飽きてくるため、あまり好みではありません。
ところで肝心の「小麦の旨味」については、小麦粉のどこの部分が寄与しているのか気になるところですが、たんぱく質とでんぷん質の両方が関与していると思います。小麦粉成分の大部分はでんぷん質ですから、これが食味に一番大きく影響しているのは、間違いありません。お米でも、銘柄、地域によって味が異なりますが、同じ理由です。一方、小麦の10%前後を占める、たんぱく質ももちろん、食味に影響しているはずです。というのは、小麦のたんぱく質の多くは、グルテン(正確には、グルテニンとグリアジン)ですが、以前はグルテンがグルタミン酸の原料として使用されていた事実からも、ご理解いただけると思います。結局、歯切れは良くありませんが、小麦全体が食味に関係しているというのが正しいようです。
蛇足ですが、基本的には小麦粉の品質は、当たり前のことですが原料である小麦に依存し、どのように製粉しても元の小麦品質よりも良くなることはありません。しかし逆に、処理の方法によっては、雑味が混入し、結果として、同じ小麦を製粉しても、「すっきりした風味の小麦粉」、とか「少し臭いのある小麦粉」などになる可能性はあります。
一般に全粒粉の雑味が強いのは、「小麦ふすま」の食味が影響していることもありますが、同時に表面に付着している「夾雑物」いわゆる「ゴミ」を同時に引き込んでいるために、全体の足を引っ張っている部分もあると思います。