#509 H28年産「さぬきの夢」中間報告
先日(2016.01.28)、H28年産「さぬきの夢」についての中間報告(正確には香川県民間流通麦意見交換会)がありましたので、簡単にご報告いたします。「さぬきの夢」の作付面積と収量は、昨年(H27)の1,576ha、4,753tに対し、今年(H28)は1,610ha(昨対102%)、4,975t(昨対105%)が予定されています。もちろん今年の予定数量は、今後順調に生育が進むという条件付きです。数字の上では作付面積と収量、共に昨年を上回る予定ですが、いくつか問題点も指摘されました。
まず冬小麦は11~12月が播種期になりますが、今年もやや降雨が多かったため、全体としては播種が少し遅れました。それ自体は大きな問題ではありませんが、その後気温が高温で推移したために、小麦の成長が1月20日時点で、平年より30%程度進み過ぎる結果となりました(画像参照)。「大きくなるのは良いことだ」と単純に思いそうですが、実は早く大きくなり過ぎると、凍霜害が発生する可能性もあるため、良くないのです。冬の風物詩、小麦の「麦踏み」(現在はローラーに代わりました)の目的の一つは、この凍霜害防止があります。
他にも気になることがあります。最近5カ年の小麦のタンパク質含有量は、9.5%(H23)、8.6%(H24)、8.7%(H25)、8.2%(H26)、7.9%(H27)と推移し、昨年は8%以下となっています。小麦の場合、タンパク質は即ちグルテンのことで、これがうどんの「つなぎ力」の源になります。つまりタンパク質が少ないとうどんが繋がりにくくなり、それだけ技術が要求されます。「打ち手を選ぶ小麦」と言ってもいいかも知れません。やはり誰もが安心して打てるためには、ある程度のタンパク質量は必要で、この点には注意を払っていただきたいと希望します。
ところで一般には、肥料を多く与えると小麦のタンパク質量が増える傾向にあります。小麦栽培には播種時の「元肥(もとごえ)」に加え、2月下旬~3月上旬に施す追肥(ついひ)」がありますが、雨が多いと、肥料が流れ出るため、小麦に十分に吸収されず、結果として小麦のタンパク質が下がるという意見もあります。小麦栽培は自然相手で、思うようにいかない部分もありますが、何とか高品質の小麦になるよう願うばかりです。
さて普段気にすることのない耕作者の小麦の収益性について考えてみました。下図は香川において水田を小麦栽培に転換した場合、10a当りの小麦の収益です。左端の\94,389について説明します。まず1階部分(紫色)が小麦価格で、これは毎年入札によって決まります。因みに昨年は309kgが\21,452、つまり\69,424/㌧となります。「さぬきの夢」は、超人気銘柄で、現在日本一高価な小麦です。小麦の国際価格は、\20,000~30,000/㌧ですので、「さぬきの夢」は世界一高価な小麦となります。
次に2階部分(黄色、\30,437)は、「数量払い」と言われ、収量が増える程、多くなる補助金です。例えば309kg/10aから360kg/10aに増えると、\30,437⇒\35,460と\5,023アップします。3階部分(黄緑、\35,000)は、「面積払い」と言われ、収量に関係なく10a当り一律支払われる補助金です。そして4階・5階部分も同様に面積払いの補助金です。このように生産者の収益は実際の小麦価格の4倍以上になりますが、実は決して収益性の高い職業ではありません。
実際、香川の専業農家の栽培品目といえばレタス、ブロッコリ、ダイコン、人参といった蔬菜(そさい)ばかりで、米や麦は収益性が良くないため、なかなか栽培しようとはしてくれません。そういう意味で、私たち小麦の実需者は、小麦耕作農家に対し、いくら感謝してもしきれません。これからも私たちうどん県のさぬきうどんを、ずっと支えて頂きたいと切望するばかりです。