#515 アートプロジェクトを通してみる芸術の在り方
イラスト担当者による新着情報をお届けします。さて瀬戸内国際芸術祭2016が、いよいよオープンしました。これは瀬戸内の島々を舞台に、「海の復権」をテーマとして2010年に始まりました。3年毎の開催で、今年は第3回目となります(過去の様子はこちら、#244、#372、またこちらもどうぞ#494)。
かつては光り輝いていた瀬戸内海の島々も、今やグローバル化の流れに呑み込まれ、昔の面影はありません。島々は過疎化、高齢化が進み、地域の活力は著しく低下しています。そこで芸術を通じて今一度、この島々の浮揚を図ろうというのが、瀬戸内芸術祭の大きな目的です。そして6年が経過しその効果も除々に現れています。一度は休校した男木(おぎ)小中学校も2014年4月1日に再開しました。
=========================================================================
昨日(2016年3月20日)、いよいよ瀬戸内国際芸術祭(以下「瀬戸芸」)が開幕しました。2010年より始まった瀬戸芸は瀬戸内の島々を舞台に、バラエティに富んだ芸術作品の数々を島内の至るところで観ることが出来ます。今年で3回目ですがその注目度は年々上がる一方です。香川県も「アート県」を積極的に推進した結果、現在ではうどんに続く香川の代名詞と言っても過言ではありません。
今回の瀬戸芸の内容については、実際に行ってからまたご報告いたしますが、今回は「アートプロジェクト」という言葉について考えてみようと思います。これは19世紀末から、イタリアの「ヴェネツィアビエンナーレ」(1895)、ドイツの「ドクメンタ」(1955)、「ミュンスター彫刻プロジェクト」(1977)等にみられるようなヨーロッパでの大型国際美術展が起源とされ、近年国内での盛り上がりは著しいものがあります。
アーツカウンシル東京のサイトには、アートプロジェクトとは、概略的には「現代美術を中心に、1990年代以降日本各地で開催されている共創的芸術活動」と定義され、それに続き具体的に様々な特徴的要素が述べられています。そして個人的には、「相互コミュニケーション」や「社会問題の解決」が大きな特徴だと感じましたので、これについて少し説明したいと思います。
従来の芸術の在り方というとアーティスト、鑑賞者それぞれに立場が分かれていました。アーティストは自分の思い通りの作品を作成し、その作品を後から鑑賞者が観るのが一般的です。しかしアートプロジェクトの場合、特に重要視されるのは、その作品を創るプロセスそのものです。つまり今までは鑑賞者となっていた一般の人がアーティストと意見を交えながら作品を完成させていきます。更にはアーティストや鑑賞者という二者だけでなく、それ以外に場所を提供してくれる人、道具を貸してくれる人など、一つの作品が完成するまでに様々な人とのコミュニケーションが必要となります。従来の閉鎖的・受動的な作品の在り方とは全く対照的です。
また、アートプロジェクトの展開により「社会問題の解決」も期待されています。例えば、アートプロジェクトの場合、作品の展示場所として廃墟や廃校が使用されることがよくあります。地方都市では近年特に過疎化の影響で空き家が多くなっていますが、それが目立つと町全体が廃れたイメージになってしまいます。そこでアーティストが住み込みで創作活動をする場として、また展示場として新たに利用されることで町全体の活性化にも繋がるというわけです。
芸術というとただの娯楽というイメージが強いかもしれませんが、「アートプロジェクト」という言葉を通して考えるとそこには今の社会に必要な新たな価値が発見できます。それを考え直す上でも、これから始まる瀬戸内国際芸術祭は貴重な体験になると期待しています。