#519 製パンを科学する①・・・基本的な製法
パンは大好きなので、朝食は必ず食パントーストと相場が決まっています。食パンは、弊社全粒粉をHB(ホームベーカリー)で焼いたものを使用します。事務所にはHBが2台並び、毎日製品チェックを兼ね、其々2~3斤ずつ焼いています。ただ恥ずかしながら、未だかつて自分で捏ねてパンを焼いたことがありません。
さぬきという土地柄、手打ちうどんは、ときどき打ちますが、パンについては素人同然です。よって「なぜうどんは切れずにつながるのか?」については、わかりますが、「パンはなぜ膨れるのか?」という疑問については、おぼろげな理解しかありません(#153)。またHBでは夏場になると膨らみが悪くなるのは、過発酵のせいですが、その本当の仕組みはよく理解していません。
よって「なぜパン生地が膨らむのか?」、「なぜ過発酵すると膨らみが悪くなるのか?」といった基本的な疑問に対する明快な解答がないものかと模索していたところ、先日の業界紙「製粉振興№581」の記事が目に止まり、この疑問に答えてくれました。自分自身への理解を確認する意味も兼ねて、井上好文先生の「製パンを科学する」という記事を、咀嚼してご紹介してみたいと思います。もちろん不明な点や正しくない記述があれば、すべて当方の責任です。
まずイギリスパンの基本的な製パン方法から復習します。蛇足ながらイギリスパン別名山型食パンと食パンとの違いは、容器(窯)に蓋をするかしないかの違いだそうです。よってHBの窯には蓋がついてないので、HBの食パンは正確には山型食パンということになります。基本的な原料配合は右画像(HBのレシピもほぼ同じ)、そして全ての材料を一度に捏ねる標準的な製パン法であるストレート法もしくは直捏法(じかごねほう)は次のようになります。
【ストレート法(直捏法)】
①ミキシング
全ての原材料をまとめてミキシングして生地を作成。
②発酵(第一発酵)
ミキシングした生地を27℃で90分放置。この過程でアルコール発酵により二酸化炭素が蓄積され、生地の体積は約3倍に膨張。この工程を「第一発酵」といいます。
③パンチ
発酵した生地に対し、「伸ばして折り畳む」操作を数回繰り返します。「パンチ」という言葉は、発酵力の弱い酵母を使用していた時代、生地の弾性が十分でないために、折り畳む前に「手の平」もしくは「拳」で強くパンチしたことに由来します。
④発酵
パンチした生地を45分間発酵。
⑤分割
生地を個々のパンの大きさに切り分け。
⑥丸め
切り分けた生地を丸める。
⑦ベンチタイム
丸めた生地を再び30分ほど発酵させる工程。生地が休憩するとの意味合いでベンチタイムといいます。
⑧成形
畳む、巻く、伸ばすといった操作を行い、目標とするパンの形に成形。
⑨最終発酵(ホイロ)
成形した生地を再度、発酵させ、元の4~5倍に膨張させます。最後の発酵工程なので「最終発酵」といいます。ホイロ(焙炉)の由来は、かつて最終発酵に使用された容器が、お茶を煎る焙炉に似ていたからと言われています。食パンや菓子パン類は温度38℃、相対湿度85%、一方バゲットのような欧風パンは温度27℃、相対湿度75%の環境で発酵させます。
⑩焼成
最終発酵が終了した生地を200℃前後の窯に入れ、焼き上げる工程で、焼成(Baking)工程といいます。
以上が基本的な製パン方法ですが、生地の状態を時間と生地のボリューム(体積)との関係でみると面白い事実がわかります。つまり最初の発酵で膨張した生地を、「パンチ」で潰し、再度膨張した生地を「分割・丸め」で再度潰し、ベンチタイムで膨張した生地を再々度潰し、最終発酵で大きく膨張した後、焼き上げます。簡単に言うと「膨張した生地を潰す」という一見非合理な作業の繰り返しですが、実はこの方法が先人たちが、大試行錯誤の末に発見した最適な製パン方法なのです。つまり大きく窯伸びし、美味しいと感じる嗜好性の高いパンに焼きあがります。