#556 新名所「高松うどん店街」とさぬきうどんの多様性
先日の地元新聞に「人気うどん店進出相次ぐ」なる記事が掲載されましたので、ご紹介します。うどん県の県庁所在地高松市にある商店街を総称して「高松中央商店街」といいますが、この南部エリアの「南新町(みなみしんまち)」と「田町(たまち)」にまたがる南北250mの地域に、最近相次いでうどん屋が出店されているというニュースです。この1月9日にはIうどん店の2号店がオープンしたため、この狭い地域に、現在8店舗のうどん店が林立することになりました。
この界隈の商店街は、かつては衣料品店中心でしたが、景気の落ちこみにより賃料がバブル期の半額以下の水準となり、その結果飲食店が進出が容易になりました。2010~12年には3店がオープン、その後も開店が相次ぎ、現在では8店舗になったという訳です。また新規の単独店よりも、有名店が2号店、3号店を出すケースが多く、競争は激化の一途を辿っています。有名店が集約すれば、集客力が増し、毎日違う味が楽しめると歓迎する声がある一方、相次ぐ出店は既存店からの客の奪い合いになると懸念する意見もあります。
上手くいけば東京神田の古本街や秋葉原の電気街のミニチュア版みたいな「うどん店街」になる可能性を秘めています。ひょっとするとこのうどん店街が、新しい「ミニうどん巡礼地」として人気を呼ぶかもしれません。また逆にうどん店が乱立した結果、客を奪い合い、共倒れになるやも知れません。この狭い商店街における未曾有のうどん店出店ラッシュが、成功するかどうかは個々の店舗の魅力と商店街としての取組みが大きな鍵を握ります。
ところで香川県におけるさぬきうどん店の数はどのように推移しているかご存知でしょうか。うどんブームが続いたので増えてると思うかも知れませんが、実際は減少し続けています(#432)。1960年代には3500店舗あったものが、979店舗@1986年⇒852店舗@2003年⇒808店舗@2012年1月⇒694店舗@2013年12月と50年間で約1/5に減少しました。ただ店舗数の減少は、うどんの消費が減ったからではなく、うどん店舗の大型化が進んだ結果です。
50年前は、現在のようなうどん店舗はほとんどなく、大抵が製麺所併設の店舗です。店舗といっても製麺所の片隅に置かれた小さなテーブルと数脚の椅子だけです。また製麺機もない時代なのでうどんは手打ち、よって提供できる玉数も限定的でした。そしてうどんブームが進むに連れて、うどん専門店に特化したお店が増え、店舗自体の大型化も進みます。店舗が大型化すると、効率化が進み、より高品質のうどんをより安価に提供できるようになります。
この大型化及び効率化の進んだうどん店舗が、更に2店舗目、3店舗目と展開していけば一層効率化は進みます。しかし問題はここからです。実は第3次うどんブーム(#543)を牽引してきたのは「うどんツーリズム」です。つまりうどんの美味しさもさることながら、各うどん店の持つ意外性や特殊性を求めてのうどん店巡りそのものが大きな魅力です。屋外で麦畑を眺めながらの一杯、山奥の橋の袂にあるうどん店、営業時間1時間だけのうどん屋さん、また一杯100円のうどんなど、さぬきには実に様々なうどんがあるのです。つまり「さぬきうどんの多様性」が現在のうどんブームを牽引しているといっても過言ではありません。
しかし今後更に効率性だけを追求するとどうなるか。もしかすると全国に何百店舗と展開しているうどんチェーン店のミニチュア版みたいなうどん店で、溢れかえるようになるかも知れません。うどんは美味しくても、どこのうどん店にいっても似たような味ばかりでは、さぬきうどんツアーにやって来られる方々にとっては、魅力は半減です。さぬきうどんの多様性をどのように守っていくかが、さぬきうどんブームを持続させるポイントだと思います。