#560 日経サイエンス特集・腸内細菌&「大便通(幻冬舎新書)」(辨野義己著)
私たちの大腸に住んでいる沢山の腸内細菌については、#480(腸内フローラ)でご紹介しました。そして今回、日経サイエンス(2017年2月号)に腸内細菌の特集記事を見つけ、興味深く読みました。ただこちらは内容が少し格調高いため、同じ著者(辨野義己氏)の「大便通(幻冬舎新書)」も併せて読み理解を深めました。以下簡単にご紹介いたします。
私たちが毎日排泄する大便は、健康に関する貴重な情報の宝庫で、私たちの健康状態を知らせてくれる体内からの「お便り」のような存在です。下痢の場合は90%以上が、また健康な状態でも80%を水分が占めています。残り20%の内訳は、1/3が「食物の食べカス」、次の1/3が「はがれた腸粘膜」、そして残りの1/3が「腸内細菌(腸内常在菌)」となります。「はがれた腸粘膜」と聞くとびっくりしますが、爪、毛髪、皮膚などは常に新陳代謝を繰り返し、新しく生まれ変わるのでそれと同じことです。そして腸内細菌も同様です。
私たちの腸内にはなんと1,000種類以上もの腸内細菌が住み、その数100兆以上、そして重さは1.5kgにもなります。ただ個々の腸内環境、つまりどんな細菌で構成されているかは個人によって差異があり、また同じ人でも毎日の食事内容や体調の状態によって変化します。その意味において大便は正に健康に関する「個人情報」の塊であり、大便を調べると腸内の状態が一目瞭然になります。蛇足ながら日本人は80年の人生で、平均8.8㌧の大便を排泄するといいます。
腸内に1,000種以上いる腸内細菌は大まかに、「善玉菌」、「悪玉菌」、「日和見菌」の3つのグループに分類されます。善玉菌の代表選手は、乳酸菌。これは乳糖やブドウ糖を栄養源にして、乳酸を製造し、腸内環境を酸性に保ちます。またビフィズス菌も代表的な善玉菌で、ブドウ糖から酢酸と乳酸を産生します。乳酸菌やビフィズス菌が「善玉菌」たる所以は、腸の働きを助けて、便秘や下痢を防ぎ、また消化・吸収を促し、免疫細胞を活性化させるからです。
一方、「悪玉菌」の代表選手は、ウェルシュ菌。これはタンパク質を腐敗させ毒素を産生します。悪玉菌は肉をたくさん摂取すると増える傾向にあります。増えると大便の臭いがきつくなり、それは腸内環境悪化のサインです。腸内環境を良好に保つには、善玉菌が過半数を占めることが理想ですが、実際は10~30%程度にしか過ぎません。そこで重要な役割を果たすのが、全体の70%を占める「日和見菌」です。その名の通り日和見菌は、勢力の強い方になびく性質があるので、常に悪玉菌よりも善玉菌をより多く確保する必要があります。
腸内フローラと同様、腸内細菌に関する重要なキーワードに、「プロバイオティクス」があります。プロバイオティクスとは、「人間の健康に役立つ生きた微生物」のことで、乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌がプロバイオティクスの代表例です。つまりプロバイオティクスとは善玉菌のことであると言ってもいいかも知れません。善玉菌を増やすにはヨーグルトが効果的です。乳酸菌やビフィズス菌をそのまま摂取できるので、効率よく腸内環境を改善できます。そして便秘や腸の老化を防ぐには、乳酸菌やビフィズス菌の食事となる食物繊維が有効です。
つまり簡単にいうと「ヨーグルトと食物繊維」が腸内環境改善のカギとなります。戦後の粗食中心の時代は、一日25g以上の食物繊維が摂取できていましたが、食品の加工技術が進歩するにつれ食物繊維は削ぎ落とされ、現在では15g程度しか摂取できていません。大便を沢山排出すれば、有害物質もそれだけ排出されます。食物繊維は、有害物質を効率よく吸着し、大便のカサを増し、「掃除」をしてくれるので、腸内環境への貢献度は大です。「従来の食生活を見直し、食物繊維を沢山摂り、便秘を防ぎ、腸の若さを保ちましょう」と、「大便通(辨野義著)」は言っています。