#577 平成29年産さぬきの夢・大豊作
香川県は7月5日、さぬきうどん用の香川県産小麦・「さぬきの夢」の2017年度の収穫量が前年比35.9%アップの6,400tとなる見込みであると発表しました。これは栽培品種が現在の「さぬきの夢」になってからは、9年ぶりに最多収穫量を更新。特に過去3年間はいずれも5,000t未満でしたので、生産者、製粉会社、そしてうどん店も今年はやっと一息つけそうです。また豊作であるということは、品質的にも高品質が見込まれ、今からどんなうどんができるのか楽しみです。
従来の「さぬきの夢」の最多収穫量は2008年産の5,990tでしたので、6,000tを突破するのは今年が初めてとなります。豊作の要因は、作付面積が2016年より100ha多い1,770haに拡大したことに加え、香川県や耕作者が一丸となり、排水対策を実施し、計画的な施肥を行った結果です。結果、10アール当りの収穫量(反収)も前年比28.1%アップの360kgと大幅に向上しました。更には天候に恵まれたことも重要です。今年はどちらかといえば空梅雨で、これが小麦栽培には好適でした。特に6月前半の収穫時に降雨がなかったことは、ラッキーでした。
小麦は他の農作物同様、生育に水は不可欠です。しかし多量の水は禁物で、特に収穫時の降雨は、著しい品質低下の原因になります。今でも語り草になっていますが、昭和38年の小麦は降り続く雨によって壊滅的な痛手を受けました。出穂期から降り始めた雨は6月10日まで、57日間も続き、降水日数47日、 残り10日が曇天という異常さで、陽をみることはほとんどなく、この期間の降水量は582mmと年間降雨量の半分に達しました。
このため、小麦は登熟期に変色腐敗し、前年比なんと8%と収穫皆無の状況だったといいます。苦労して刈り取った麦も穂発芽や腐敗で家畜の餌にもできない惨憺たるものであったとの記録があります。穂発芽とは収穫前の穂に実った種子から芽が出る現象のことで、雨が多くふるとこのような現象が起こります。そして穂発芽は、著しい品質低下の原因となります。
ところで近年の小麦の作付面積は1,700ha程度で推移していますが、昭和37年には現在の10倍以上の18,000haが耕作され、収穫量も50,000tを超えていました(#346)。そしてその翌年が、前述した天候不順による史上最悪の大凶作となりました。これをきっかけに一部の農家は耕作意欲を失い、また折しも高度成長期と重なり、その後の香川県における小麦生産は、他府県同様減少の一途を辿ります。またこの頃から海外から高品質の小麦の輸入量も増加し始め、国産小麦は減少に拍車が掛かります。
このような背景のもと、一時は「讃岐の小麦もこのまま消滅してしまうのか!」と危惧される声もありましたが、その内に「さぬきうどんは、讃岐で耕作した小麦で打ちたい」という要望が徐々に高まり、香川県農業試験場がさぬきうどん専用小麦の開発を開始します。そして最初に開発された品種が、2000年に登場した「さぬきの夢2000」でした。「さぬきの夢2000」で打ったうどんは、風味が強く、特にその深い味わいは出色でした。
ただ唯一の欠点は、グルテンの性質が少し脆いため、うどんが切れやすいという作業適性の問題でした。特に打ち手を選ばないASW(豪州産小麦)を打ち慣れたうどん屋さんにとっては、その点を問題視する方がかなりいらっしゃったようです。そこでその問題点を解消した第2世代の「さぬきの夢2009」が2009年に登場し、現在に至っています。香川県農業試験場では現在も引き続き新品種の開発が進められ、3代目「さぬきの夢」が登場する日もそんなに遠くないかも知れません。次世代「さぬきの夢」はどんな小麦になるのか今からとても楽しみです。