#614 ありがとう「こむぎ屋さん」
新学期を迎え、瀬戸大橋もこの4月10日にめでたく満30歳となりました。そんな節目のおめでたいこの頃ですが、良いことばかりではありません。出会いがあればお別れもあります。突然ですが、坂出の名店がまたひとつ閉店しました。イラスト担当者よりご報告します。
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「こむぎ屋さん閉店!」、あまりにも突然のお知らせでした。田舎からの一報は、あまりに衝撃的でした。特に事前発表をすることもなく、当日に「今日をもちまして閉店させていただきます」とは、あまりに去り際が呆気ないではありませんか・・・。
32年という歴史の中で、地元の人たちをはじめ多くの人たちに愛されてきた「こむぎ屋」さんは、私が物心ついた時から通っていた、馴染みのうどん屋さんです。行くのは決まって日曜日のお昼。いつも店の賑わいがいつもピークを迎える時間帯でした。
入り口には、小さな立て看板があり、ウィークデーには「本日のおすすめ」が書かれています。「わかめうどん」、「かやくうどん」、「カレーうどん」、「肉うどん」などが、代わり番こでサービスメニューになります。店内はいつも満席。できるだけ時間をずらせていくのですが、待たずに座ることができれば、超ラッキー。待つ事の方が多いですが、美味しいうどんのためなら、何の苦労もありません。
子供はカレーが好きなのか、小さい頃は「カレーうどん」ばかりを注文していました。尤もここ数年は「ざるうどん」か「かけうどん」。冬場でも「ざるうどん」を注文していたので、母親からは「寒いのにそんなのやめなさい」とよく注意されましたが、好きなものは好きなのです。
ちなみに店内で一番高いメニューは「鍋焼きうどん」(それでも720円)。たっぷりの具と一緒にグツグツと煮えたうどんが入った鍋が、湯気をモクモクさせながら運ばれていく光景が、こむぎ屋さんの冬の風物詩です(もちろん夏場も人気メニューのひとつです)。年末の超繁忙期には、釜あげうどんが注文不可になりますが、なぜ時間がかかる鍋焼きうどんがそうならないのか、不思議でした。
注文してからうどんが来るまでの間は、おでんタイムで、これがまた楽しみでした。かまぼこ、牛すじ、ミートボールなど串に刺さっているものは、先端に小さなこんにゃくが刺さっていて、ストッパーの役目を果たしています。それでも、中には引き上げた牛すじの、半分くらい落ちているのもありました(泣)。引き上げた手前、戻すわけにもいかず、なんだかおみくじを引いているようでした(笑)。
ちょうどおでんが終わる頃に、うどんが到着します。ざるうどんは、冷水でキュッと締められ、コシが強く角が立った麺は噛みしめるたびに小麦の風味が、伝わってきます。ざるうどんのつゆは少し甘めに仕上げているので、かなりパンチの効いたワサビをたっぷり入れるのが私のこだわりです。かけうどんは、とにかく出汁が絶品で、私の疎い語彙力ではうまく表現できませんが、父親は、いつも飲み干すので、詳細は不要でしょう。
店内は常に活気に溢れ、店員のおばちゃんたちの注文を受ける声が響き渡っています。届け先が不明となったうどんに対しては、おばちゃんが「かけうどんどこな〜!」と大きな声を発すると、お客さんが「ここやで〜!」とそれに負けない大声で返事をします。いつもこんな感じなんです。
お会計の際もアピールは大事です。観光客の方が、少しためらいながら声をかけるタイミングを伺っている様子をよく見かけますが、なんせお客さんが多く忙しいため、大声をださないと気づいてくれません。
と、私なりに説明を試みてはみましたが、「こむぎ屋」さんの雰囲気が少しでも伝わったでしょうか。考えてみれば、「こむぎ屋」さんほど私にとって「行きつけ」のお店は、東京にも香川にもありません。それくらいよく通ったお店なのです。店内でよく見かけた常連客の人たちの方が、私より何倍も悲しんでいるに違いありません。上手くまとめる言葉が見つかりませんが、「こむぎ屋」さんのおうどんで育った、今の私があります。