#619 ひもかわうどん
群馬県桐生市の郷土料理である「ひもかわうどん」は、きしめんよりもずっと幅の広いひらめんです。「ひもかわ」という名前は、きしめんのルーツである三河の「芋川(いもかわ)うどん」がなまったとか、革製の紐のようであるとか、様々ですが真偽は不明です。とにかく薄くてやたら幅の広い麺が「ひもかわうどん」です。そして、先日知合いから乾麺のひもかわをいただいたので、早速うどんテイスティングを実施。
最初にひもかわが、どの位幅広いのか説明しておきます。乾麺の製法は、簡単に説明すると次のようになります。小麦粉を塩水と練り合わせた生地を、金属製の二つの円柱(ロール)の隙間を通過させることにより、圧延し、薄くします。このとき、いきなり薄くしてしまうと、生地の中のグルテン繊維を引きちぎってしまうので、徐々に薄くします。そして、適度な厚さになった生地は、「切り出しロール」もしくは簡単に「切刃(きりは)」と呼ばれる押し切り機で、切られてうどんになります。このようなうどんの製造方法を「ロール製麺」といいます(#069)。
このロール製麺によって製造された乾麺は、その切り出し幅の太い順に、うどん>ひやむぎ>そうめんとなります。ただ太いのがうどん、中くらいがひやむび、細いのがそうめんという漠然とした基準では、混乱するので、JAS (日本農林規格)では次のように定義しています。つまり直径が 1.3mm 未満のものがそうめん、 1.3mm 以上 1.7mm 未満がひやむぎ、 1.7mm 以上がうどんです。そして切刃には、その溝の幅を表す指標として、「切刃番号」もしくは「番手」が設定され、これは 3 センチ幅に含まれる溝の数を指します。例えば、 10 番ということは、溝の数が 10 本なので、1本の幅は 30 ㎜÷ 10 = 3 ㎜となり、これは 1.7 ㎜以上なので、うどんとなります。
一般的な切刃番号と用途は、次の表のようになっています。うどんより幅の広いのが「ひらめん」で、溝幅は7.5~5.0mmとなります。表では切刃番号は#4~#30しか表示されていませんが、通常はその中から切刃を選択します。しかし今回テイスティングしたひもかわは、なんと幅が30mmもあります。つまりこれは番手でいうと#1、つまり3センチ幅の中で1本しかとれず、実質乾麺ではこれが最高に太い麺ということになります。画像からも一般の乾麺と比較してどれほど広いか、おわかりでしょう。
ゆでる前の太さでびっくりしてはいけません。ゆでると更に太くなります。うどん生地は、五列というロール機を通過しながら圧延方向にどんどん延び、それに応じてグルテン繊維も圧延方向の方向性をもつようになります(#222、#223)。するとゆでたときに、失活したグルテン繊維が「つっかえ棒」の役目をするため、乾麺は縦方向には伸びにくく、太くなりやすくなります。その結果、幅3センチのひもかわは、ゆでるとなんと幅が5センチにもなります。
一方、幅広麺なのでゆでるときには注意が必要です。普通の乾麺のようにバラバラと鍋の中に放り込むと、麺同士がくっついてしまうので、1本(1枚?)ずつ丁寧に投入する必要があります。最初、まとめて投入しようとするとくっついて焦りましたが、裏面の調理方法には、ちゃんと、1枚ずつ投入してくださいと注意書きがありました。
盛り付け画像をご覧ください。画像からはワンタンのようにしかみえません。つけ麺で挑戦したところ、食べ慣れていないせいか、それとも幅が広すぎるせいか、なかなか思うように啜ることができず難儀しました。超幅広麺は少しワンタンっほい食感で、「なるほど、これがひもかわか!」と感動しながらいただきました。思わず、餃子の皮もゆでると、こんな感じになるのだろうかと、想像しました。それにしても、恐るべしひもかわうどん。日本には様々な麺があります。