#623 グルテンフリー・ダイエットの真実・・・その①
最近グルテンフリー・ダイエットという言葉をよく耳にするようになりました。ただ言葉だけが先行し、なかなか正確な情報が伝わらず、我々小麦粉産業に携わる関係者にとっては、悩ましい状況が続いていました。そんな中、先日業界紙「製粉振興#594」に「グルテンフリー・ダイエットの間違った情報に惑わされないために(下方浩史 著)」という記事が掲載され、興味深く読みました。下方浩史先生がグルテンフリー・ダイエットの真実を分かりやすく説明されているので、以下簡単にまとめてみました。
【0. なぜグルテンフリー・ダイエットなのか?】
テニスの元世界ランキング1位のジョコビッチ選手は、グルテンフリー・ダイエットを実践したところ体調が良くなり成績アップしたといいます。そしてこれをマスコミが大きく取り上げ、これがグルテンフリー・ダイエットが脚光を浴びるようになった一因であると言われています。巷ではグルテンフリー食材が健康食品として販売され、一大市場を形成しつつあります。そして果てはグルテンフリーのドッグフードなるものまで登場し、ブームはますます過熱しているようです。
グルテンフリー・ダイエット信奉者の人たちは、高血圧、肥満、糖尿病、心臓病・・・などありとあらゆる病気の根源はグルテンにあり、グルテンの摂取を止めれば、これらの疾患を治療でき、また予防できると考えていらっしゃるようです。しかしこれらは真実ではありません。近年はグルテンと健康に関する大規模な疫学研究も相次いで発表され(後述)、グルテンフリーは、心臓病予防には無効であり、逆に糖尿病リスクが上がることも明らかになりました。
【1.グルテンフリー・ダイエットとは】
グルテンフリー・ダイエットとは、「グルテンを摂取しないダイエット方法」、つまりグルテンを含まない食事のことを指します。ご承知のように、グルテンは小麦粉に含まれる主要タンパク質、グリアジンとグルテニンから作られるタンパク質のことです。よってグルテンフリー・ダイエットとは「グルテンはNG⇒小麦粉を使用した食品もNG」となり、うどん、ラーメン、ピザ、パスタ、お好み焼き、たこ焼き、パンなど、私達が通常口にしている食品はほとんど全てアウトになります。
しかし実際はグルテンを控えることでダイエットが実践できるわけではありません。つまりグルテンフリー・ダイエットは正しいダイエット方法ではないのです。この事実を、以下順序を追って説明します。
【2.小麦の歴史】
小麦は少なくとも1万年前には、メソポタミアを中心に栽培が始められ、5,000BC頃にはエジプトでパンが焼かれるようになりました。更には今から2万3,000年前のイスラエル北東部のオハロ遺跡から出土した玄武岩の石皿には、野生の大麦や小麦でんぷんが付着していたという報告もあります。いずれにしても人類は、文明が誕生する前から小麦を摂取していたことになります。そしてその後小麦は世界中に普及し、栽培され、そして食されることになります。
つまり小麦は人類史上最も長期間に亘り、また全人類的に主要な食糧として存在してきたことになります。言い換えると、小麦は他のどんな食材よりも長く、またより多くの人々によって支持され、その有効性と安全性が実証されてきたことになります。
【3.小麦粉とGI(グリセミックインデックス)】
GIは食後血糖値の上昇度を示す指標です。小麦製品、特にパン類はGI値が高値であるので、小麦の摂取は血糖値を急激に上昇させ、糖尿病を要因になるとの主張があります。しかし実際のGIには、次のような問題点が指摘されています。
①GIは調理方法で変化する。
例えば、ジャガイモはゆでるとGIが高くなります。つまり同じ食材でもGI値は、調理方法により変化するのです。
②GIは測定条件の違いで変化する。
通常、GIの測定は、ひと晩絶食した状態で、対象となる食品だけを摂取して測定します。しかし実際の生活では、このような食事のとり方はあり得ません。そして食品を摂取する順番や、同時に摂取する他の食品によって、糖質の吸収速度や吸収率は大きく異なり、その結果GIはかなり幅のある値となります。
③GIは個人差が大きい。
GIは同じ人に対して測定しても、日によって大きく異なります。また人によっても、測定値やその変動が大きく変化します。実際、同じ食品に対しても、公表されるGI値は、公表機関によってかなり異なります。
つまり、小麦やパンのGI値は高いけれど、通常の食事においては、血糖が急激に上昇することは少なく、肥満や糖尿病のリスクになることはありません。むしろ逆に小麦の食物繊維が、肥満や糖尿病のリスクを抑える可能性が高いと考えられています。 (続く)