#624 グルテンフリー・ダイエットの真実・・・その②
【4.セリアック病と小麦アレルギー】
ただ小麦にも気をつける点はあります。セリアック病は、小麦を摂取することで腸管の粘膜を損傷してしまう遺伝病です。ヨーロッパでは150人に1人、米国では250人に1人にセリアック病が見られるといいますが、アフリカ、日本、中国では極めて稀にしかみられません。また小麦アレルギーも僅かですが、存在するのは事実です。よって若干ではありますが、このような小麦が合わない体質の方は、残念ながら小麦粉食品は不適となります。きっとジョコビッチ選手もそうであったと想像できます。
【5. グルテンと健康に関する疫学研究結果】
①グルテン摂取量と心筋梗塞発症との関連性
ニューヨーク大学による2017年の報告です。セリアック病ではない人たち11万人(男性45,303名、女性64,714名)に対し、1986年から2010年まで4年毎に食事に基づいたグルテン摂取量と心筋梗塞発症の調査を行いました。26年間追跡した結果、女性2,431名、男性4,098名が心筋梗塞を発症。しかしグルテン摂取量と心筋梗塞の発症数との相関関係は確認されず、食事中のグルテンを減らすことの有用性は否定されました。
②グルテン摂取量と(2型)糖尿病との関連性
2017年の全米心臓病学会での報告。合計199,974名に対し30年分の追跡データを分析した結果、期間中に15,947名が糖尿病を発症。そしてグルテン摂取量が多い上位20%のグループは、1日4g以下しか摂取しないグループに比べ、糖尿病の発症リスクが13%低い結果となりました。グルテン摂取量が少ないグループは、穀物由来の食物繊維の摂取量も少ないことが判明しましたが、この食物繊維の不足が糖尿病発症リスクを増大させたと推測されています。
③穀物由来の食物繊維の摂取量と全死因死亡率との関連性
40万人近くの追跡研究において、小麦などの穀物からの食物繊維を多く摂取している人は、摂取量が少ない人と比べて、全死因死亡率が19%低く、癌による死亡率は15%、心血管性病変による死亡率は18%低くなっていることが判明しました。また穀類の食物繊維は、フルーツや野菜の食物繊維よりも効果的であることも報告されています。
④その他
グルテン由来のグリアジン加水分解物は、血圧を下げることが知られています。またグルテンを構成するアミノ酸の40%を占めるグルタミンは、免疫機能を改善し、感染症を予防することも報告されています。
【6.グルテンフリー食品の問題点】
①アメリカにおけるグルテンフリー食材の価格は高く、特にパスタやパンのは通常の倍以上の価格になっています。
②グルテンフリー食材では、通常品と比較しタンパク質が69%も少なく、セリアック病患者の栄養障害の要因となっている可能性さえも指摘されています。
③グルテンの「もっちり感」をだすために、飽和脂肪酸を含む脂質が多く使用され、逆に食物繊維やビタミン類の不足が目立つとの報告がああります。
④通常のパスタよりもグルテンフリー・パスタの方が食後の血糖値上昇が大きかったという報告もあります。
⑤グルテンフリー食材は、カロリーが多いため太りやすく、また食物繊維が少ないことで便秘になりやすいという問題点が指摘されています。つまり食品から小麦成分を無理やり取り除いたグルテンフリー食材は、食事のバランスが崩れやすく、一般的な食品と比較し、栄養面からは決して健康的とはいえない。しかし「グルテンフリーは健康的である」との思い込みから、グルテンフリー食材市場は、拡大しています。
【7.まとめ】
近年、小麦のでんぷんや特に食物繊維は、腸内フローラを健康な状態に保つことで、多くの生活習慣病を予防し、また免疫機能を改善することがわかってきました。一方、「グルテンフリー・ダイエット」というと、やせることを目的とした減量法と誤解している人も多くいます。しかし実際は健康な人が実践しても効果があるという科学的根拠は、ほとんどなく、むしろ有害である可能性が大きいことが判明しました。下方先生の結びの言葉は、私達小麦粉産業の関係者を大いに勇気づけてくれます。以下、原文のまま引用いたします。
「小麦は、うどん、ラーメン、パスタ、お好み焼きなど、日本人の生活に密着し、さらに地域の特性を出しながら、多彩な食生活を生み出す原動力となっている食材である。米や小麦などの穀物を中心とした日本人の食事は多様性に富んでおり、世界一の健康食と言ってもいいかもしれない。間違った情報に惑わされることなく、自信を持って、自分たちの食生活を守っていくことが、今の日本人には求められている。」