#628 中小・山工場での生き残り作戦・・・旭製粉の取組み
旭製粉株式会社は、奈良県の製粉会社。先日、西田社長から現在の取組みについてのお話を伺いました。会社創業は昭和15年(今年で78歳)ですが、それ以前から寺川沿いに水車製粉を営んでいたので、歴史は更に遡ります。奈良県は、昔から奈良盆地での小麦栽培が盛んで、水車の利用も活発でした。更に日本最古の手延素麺である三輪そうめん発祥の地もこの奈良県です。つまり奈良県における小麦製粉の歴史は古く、旭製粉は現在その歴史を受け継ぐ奈良県唯一の製粉会社です。
西田社長の過激なタイトル「中小・山工場の生き残り作戦」について若干補足します。現在の製粉工場は、小麦粉の品質を向上させるために、「段階式製粉方法(#627)」を採用しています。結果、機械設備は大掛かりになり、製粉産業は、装置産業となりました。つまり小規模生産では、機械類の償却ができないため、どうしても一定以上の生産量が必要です。また近年は益々機械装置類が増えた結果、一層の生産量アップが迫られるようになりました。そのような背景により、製粉企業数は、166社(S56)↓81社(H28)と、37年間で半分以下になってしまいました。
うどん屋さんなら、麺棒一本で純手打ちの商売が可能です。しかし小麦製粉は事情が大きく異なるのです。製粉産業では、「中小」であることがハンディとなります。また立地条件の問題もあります。業界では、港の穀物サイロに直結している工場を「海工場」、そしてサイロからトラックで小麦を搬送する必要がある工場を「山工場」と呼んで区別しています。どちらが有利であるかは、説明は不要でしょう。海工場では、ボタン一つで、工場内に小麦が搬入されるのです。
昭和30年代までは、国産小麦が主流だったので、製粉工場は小麦の産地に多く立地していました。しかしその後、輸入小麦が急増し、現在は90%を占めるようになりました。輸入された小麦は、港にサイロに保管されます。つまりコスト的に海工場が圧倒的に有利となります。よって「中小かつ山工場」であることは、製粉工場にとっては極めて大きなハンディとなります。しかもこれだけではありません。西田社長は、二次加工業界の状況の変化も指摘します。
パン屋さんを例に挙げます。他業界同様、製パン業界もかつては、大手製パンメーカー、準大手製パンメーカー、そして中小製パンメーカーが沢山ありました。しかし大手パンメーカーによる集約化が進み、かつては中小製粉の重要な顧客であった準大手製パンメーカーが、大きく減少しました。その結果、中小製粉の生産量も減少。つまり中小製粉がかかえる問題点は、次の3点に集約されます:①不十分な生産規模②不利な立地条件③二次加工業界の集約化による需要の減少。
そういう三重苦の中、どこに活路を求めるか。永年小麦製粉しかやっていないので、ノウハウのない異業種参入は、危険が伴い実現的ではありません。また一気通貫ビスネス(垂直統合型)を目指す、川下への進出は、既存ユーザとの競合を招く可能性があり、これもイマイチです。しかし粉体の取扱いだけは、自信があります。そこで平成9年、小麦粉に付加価値を付加することができるミックス事業に取り組みます。しかしいきなり大きなラインを導入したため、使い勝手が悪く、失敗の連続でした。
そこで若干軌道修正を行い、小ロットのミックス粉に特化します。社長曰く「2つのレアな機能を組み合わせれば、新規顧客の獲得率はアップする」っと。つまり「ミックス粉☓小ロット」の組合せです。これなら大手は参入できないし、小回りの効く中小製粉の得意分野でもあります。現在では、15g以上であれば充填可能、最高23種類までのミックスの実績あり、また1ロット200kgからのオリジナルブレンドもOK。「何でも混ぜまっせ!何でも詰めまっせ!」を合言葉に頑張っています。みなさんもオリジナル・ミックス粉が必要なら是非問い合わせてみてください。西田社長の話を聞いて、元気になりました。