#640 段階式製粉方法⑦・・・石臼挽き小麦粉の累積灰分曲線
(#639)では、ロール挽き小麦粉の累積灰分曲線を紹介しましたが、今度は石臼挽き小麦粉の累積灰分曲線を考えます。次は、香川県産小麦「さぬきの夢」を直径40cmの電動石臼で挽いた小麦粉のデータです(永尾氏提供)。石臼は、一発勝負なので、細かいとり分けには不適です。石臼からでてきたストックを、異なるメッシュの網で篩うだけです。ここでは次の4種類に篩い分けました。ここでスルーとは網の目を通過したストック、またオーバーは通過しなかったストックのことです。
F01・・・石臼で挽いたストックを70メッシュで篩ったスルー。
F02・・・上のオーバーを60メッシュで篩ったスルー。つまり70メッシュより大きく60メッシュより小さなストック。
F03・・・更に上のオーバーを50メッシュで篩い、そのスルーを石臼で再度挽き、70メッシュで篩ったスルー。つまり60メッシュよりも大きく50メッシュより小さなストック例外的に再度挽き、70メッシュで篩ったスルー。
F04・・・上記以外は、小麦ふすまとなります。
このデータから石臼挽き小麦粉の特徴をまとめてみました。
①高品位の小麦粉は得られない。
(#635)で説明しましたが、石臼の場合、小麦が粉砕面と触れている時間が長いため、表皮は著しく挽きちぎられ細かくなり、その一部は胚乳部分と混ざってしまいます。そのため石臼挽きの小麦粉は、どうしてもくすんだ色調になります。ロール製粉の場合、灰分0.3%の小麦粉がとりわけ可能であるのに対し、石臼挽きは、0.527%となっています。
②上り粉の種類は限定される。
基本的には、一度挽いた小麦を、メッシュの異なる網で篩うだけなので、段階式製粉のように多くの上り粉をとり分けることができません。網の種類を増やしても、基本的な違いはないので、あまり意味はありません。よって4種類程度が限界です。
③累積灰分曲線は、大雑把になる。
ロール製粉では上り粉の数が多いので、滑らかなアッシュカーブが得られます。しかし石臼では上り粉が4種類しかないので、どうしても直線的になります。このアッシュカーブをみても、ほとんどが2等粉であることがわかります。
次にこれらをペッカテストしてみました。画像は左から、F01、F02、F03、そして右端はロール製粉の小麦粉です。F01(70メッシュ)はかなりきれいですが、よくみると斑点のようなものがいくつかあり、これが小麦のふすま片です。ふすま片の実体は、食物繊維であるため、ゆでてもそのまま残るので、うどんの表面にもはっきりと判別できます。僅かであれば気になりませんが、多くなると喉に引っかかり、イガイガ感となり、違和感を覚えるようになります。
F01の灰分0.527に対し、F02の灰分0.590と若干の増加のようですが、実際の色調にはかなりの違いがあります。またF03(灰分1.04)になるとほとんど茶色で、これは小麦粉というよりも小麦ふすまといってもいい位です。今回石臼挽きの小麦粉をご提供いただいた永尾さんは、普段ロール挽きと石臼挽きを同割(50%ずつ)で使用しています。画像を見ると、全体的にくすんだ飴色で、表面には小麦のふすま片がついているのがわかります。
現在の小麦粉製粉は、ロール製粉が圧倒的に多いのに対し、石臼挽きは限定的です。一方、蕎麦粉では、石臼は現在でもかなり活躍しています。この一つの理由は、小麦と蕎麦の構造上の違いにあります。小麦は内部の胚乳がもろいのに対し、表皮は食物繊維なのでかなりごわごわしているので、石臼挽きはどうしても表皮の混入が避けられません。一方、蕎麦は胚乳と殻(果皮)とが分離しやすいので、石臼でも充分に挽くことが可能です。外の殻だけをとったのが蕎麦の抜き実ですが、小麦では不可能です。加えて蕎麦粉はより一層鮮度が重視されるために、ハンディな石臼がもってこいです。