#654 マリンバの千秋(ちあき)ちゃん

先日、高校時代の同級生の千秋(仮名)が香川県から遥々、うちへ泊まりに来ました。学生時代は熱烈仲良しではなく、普通に仲の良いクラスメートでした。しかし不思議なもので、大学に入ってから何気なく連絡を取り合うようになり、ついにはLINEビデオ通話を頻繁にするくらい、互いの生活を晒け出せる仲になりました。そんな千秋は音大を卒業した後、再び地元に戻りフリーの打楽器奏者として演奏活動や、学校での指導にあたっています。今回、東京で演奏者との打ち合わせがあるという理由で、私のアパートに3泊4日転がり込むことになりました。

少し補足すると打楽器奏者の千秋の専門はマリンバです。といっても一般の方には馴染みが薄いかもしれません。簡単にいうと大きな木琴みたいな感じで、木製の音板がズラリと並んでいます。音域は4オクターブが標準で、優しい音色が特徴です。よく似た楽器にシロフォンがありますが、こちらは音色が少し硬く、どちらかとこちらの音色の方が木琴のイメージに近いように聞こえます。これはもちろん受け売りですが、マリンバの起源はアフリカにあります。アフリカのある言葉で「リンバ」は木の棒を意味し、沢山を意味する「マ」という接頭語がついて「マリンバ」となります。

話は戻り、タフな千秋は、なんと夜行バスにのって東京にやって来ました。夜に香川を出発し、新宿駅には午前7時頃到着。当日は日曜だったので、まだまだ布団の中にいたいところでしたが、親友のために早起きして出迎えました。それにしても私だったら身体がバキバキになるところですが、逞しい千秋を見直しました。その後、ランチがてら街にくり出し、帰りは節分ということもありスーパーへ寄って買い出しをしました。私は面倒くさがり屋なので行事ごとは、なにもしませんが、千秋は結構そういうのを気にします。夕食はしっかり2人で恵方巻きを握り、東北東を向いて無言で食べました。デザートは節分豆でしたが、そろそろ数を数えるのが面倒な年齢になってきました。

寝る前になると、スイーツ大好きな千秋は、突然スマホ片手に、「明日はどんなお店に行こうか」、「どんなスイーツを買ってこようか」と真剣な眼差しで検索を始めます。そしてこの就寝前の儀式は3日間続きました。結果、アップルパイ、和菓子、チョコレート、ケーキ、その他多数。普通の人が1ヶ月で消費するであろうスイーツをこの3泊4日ですべてやっつけました。この光景を目の当たりにすると、「東京には打ち合わせにきた」という千秋の言葉は、到底信じることができません。

一緒に寝起きすると、今まで気づかなかったこともいくつかあります。睡眠と食への貪欲さは共通ですが、決定的に違うのは、所有品の量と掃除欲です。私は所有品の量が結構少ないらしく、また潔癖症の母親に似たのか、頻繁に掃除をします。いつもLINE電話で画面越しに殺風景な私の部屋を見ていて知っている筈ですが、実際にみると想像以上に少なかったようで、衝撃を受けていました。

また部屋を綺麗に保つ術を習得すると突然言い始め、「掃除機はどれくらいの頻度でかけるの?」、「水回りの掃除はどうやってするの?」やら、あれこれ聞かれました。改めて考えてみると、部屋は狭いので、基本台所と洗面所でタオルを使い分けるようなことはせず、またティッシュやはさみなどの備品も基本てきにはひとつだけです。つまり重複しないことが、モノ減らしのポイントかもしれません。また千秋はコロコロ(イラスト参照)の万能さに感銘を受け、後日すぐに購入したと、報告を受けました。

お互い全く気を遣う必要がないので、千秋は勝手放題の3泊4日の生活を過ごし、水曜日の夜、再び夜行バスに乗りこみ香川へ帰りました。千秋はこの4月からフルタイムの音楽の先生になります。東京では、何か成果があったとは思えず、今にして思えば、就職前の単なる気晴らしにやってきただけだったのかもしれません。