#664 中国の小麦事情
世界一の小麦生産国は、中国です。2018/19年度世界全体の生産量7.35億tの内、中国は1.31億tと18%を占めています。その上更に400万tを輸入しています。すべてが食用になるわけではありませんが、小麦粉歩留まり78%、人口13.8億人とすると、1人1日平均210gとなります(日本は、人口1.2億人、小麦消費量600万tなので、1人1日平均100g)。つまり中国の人は、日本人の2倍の小麦粉を消費していることになります(数値はH30製粉講習会資料より)。
1人当たりの消費量が2倍、そして人口10倍以上となると、中国における小麦の市場規模は、日本のざっと20倍以上。よって製粉産業もそれに比例して巨大な規模になります。小麦粉市場は、上位3社で全体の30%を占め、各社の概要は次のようになっています。単一工場ではインドネシアのボガサリ(#657)がダントツですが、会社の規模としては、圧倒的に中国です。この3社の挽砕能力合計は、8.1万t/d (ton/day、つまり1日当たりの挽砕トン数)。つまりこの3社が製粉すれば日本の需要の600万tは、74日で製粉できることになります。
No.1 :ウーデリー社(Wudeli、) 挽砕能力47,500 t/d www.wudeli.com
No.2 : ウィルマー社(Wilmar) 挽砕能力17,500 t/d www.yihaikerry.net.cn
No.3 :コフコ社( COFCO) 挽砕能力16,000 t/d www.cofco.com/en/
ウーデリー社は、1988年に家族経営の15t工場で創業を開始。1996年に200t工場を建設し、その後増設を繰り返し、2012年には挽砕能力2万t/d、シェア7%と中国最大の製粉会社になります。そして更に6年後2018年には、北部6省に14工場を持ち、挽砕能力4.2万t/dでシェア15%。そして現在更に5つの新工場を建設中で、これが完成すると6省に19工場、挽砕能力8万t以上となり、フル稼働すればシェアは単独で30%になると言われています。
中国は巨大市場であるため、急成長の製粉会社が登場しても特段不思議ではありません。しかし従来からも1億t以上もの小麦が生産され、製粉されてきました。ただそれらは夥しい数の小規模製粉で製粉されていたに違いありません。そこで近年の急激な変化には何か理由があるかも知れないと、検索してみると「中国小麦の受給動向(河原昌一郎著)」が見つかりました。以下、その記事から気になったところを独断でまとめてみました。
【①急成長の背景】
従来中国の製粉企業は、生産効率が悪く、稼働率も低い中小企業が多かった。そこで2012年1月に国家糧食局から、次のような内容の「糧油加工業十二五発展計画」が公表された:①年加工小麦30万t以上の加工産業区を支援建設。②年加工小麦150万t以上の企業を数社育成。③製粉産業の近代化を推進。④挽砕能力400t/d以上の工場比率を65%に引き上げる。つまり従来の製粉工場は、効率の悪い中小工場が主体であったので、国家主導で近代化を促進し、大型化および効率化を図るということです。そして現在の上位3社はこのような状況下、急成長したと考えると納得できます。
【②小麦生産量の推移】
1990年代に約1億tあった生産量は、播種面積の動きに合わせ2000年から減少を始め、2003年には9000万tを切るが、その後は最後増産が続き、最近は1.3億tとなりました。
【③小麦の消費動向および消費構成】
小麦の需要に比例して、1人当たりの小麦消費量も増減します。1990年代には1人当たり90kgだった消費が、2000年代半ばには80kgを割り込みますが、その後増加に転じ、再び90kgを超ました。しかし同じ90kgでも90年代と現在とでは、内容が異なります。1990年代の伸びは、人口増加が主たる理由であるのに対し、現在の需要増大は次の3点の理由によるもので、これらはいずれも生活水準の向上に起因します:
①畜産物生産が拡大することによる、飼料用途の小麦需要が増大。
②デンプン、グルテン、工業用アルコール、麦芽糖など、つまり工業原料としての小麦需要の増大。
③高級小麦粉つまり低歩留まり小麦粉の需要増大による小麦消費の増大。
さて以上を個人的に総括すると、①中国での近年における小麦需要増大の原因は、生活水準向上によるもの。②また近年の巨大製粉会社の登場は、製粉産業近代化を促した政策が影響している、の2点に尽きると思います。確かに近代化、効率化は必要ではありますが、弊社のような規模の会社にとってはなんとも複雑な心境です。私たちとしては、小麦粉はコモディティではないと、消費者に訴求していくしかありません。